固定観念を揺さぶることで新しい企画を生み出そう!
商品・サービスのコミュニケーションにおいて、社会との接点を考える視点は欠かせない要素だ。本稿では、従来の「固定観念」を揺さぶり、今の社会にマッチした価値観を生み出すポイントを解説。広報・PRを行う上での新しい企画発案の参考にしてもらいたい。
ニュースバリューを高める! 企画・発想
2015年に国連で採択されたSDGs達成目標の2030年まで10年を切った2021年。世界2位の環境汚染産業と言われるファッション業界はどのような発信を目指すのか。「サステナブル」をテーマに、企業広報、メディア、そしてZ世代の視点を聞いた。
田中:H&Mは1990年ごろから、環境汚染、化学薬品、児童労働など業界として直面した社会問題に対応していく中で、取り組みを段階的にスタートしました。2013年にはサプライヤーリストを公開、古着回収サービスを開始したりと、今では本格的に「サステナブル」をビジネスの中に取り入れています。広報を担当していると、本当に全ての活動において「サステナビリティ」が根底にある企業なんだと実感します。
発信・PRの面でいうと、ここ数年はかなりお客様目線のコミュニケーションを意識するようになりました。「この商品はどこでできていますか」「どういうふうにつくられているのか」など、サステナブルな視点を重視するお客様が増えているんです。特に本社のあるヨーロッパではその傾向が強いため、タグに表記をしたり(🅐)、商品のページからどこの工場でつくられたかが分かるようにするなど様々なコミュニケーションを行っています。
🅐
一方で、日本では意識が高まってはいるものの、まだいまいち理解されていない人も多いと感じています。その両方の目線に、どう寄り添って発信できるかというところを意識しながら、日々コミュニケーションしていますね。
坂井:意識の高まりは、メディアの編集をしていても感じます。H&Mさんのように、いち早く取り組んでいらっしゃったブランドは、これまでもそのようなコミュニケーションがありましたが、それが業界全体で取り組みつつあるという気配を感じたのは2018年ぐらいじゃないでしょうか。2017年ごろから、世界で「ファッションが環境に負荷をすごくかけているよね」という発信が徐々に出てきたんです。SNSなどでその課題感を共有し合える流れもあり、認知度としてはだんだん高まっていったのだと思います。
さらに、ここ1年弱でテレビなどのマスメディアや日本の企業が「SDGs」という言葉を使い出してからは、だいぶ浸透してきたんじゃないかという印象がありますね。
田中:今日もそうですけど、メディアの方からの問い合わせも、この2、3年で急に増えてきてると感じています。メディアで取り上げられることによって、また消費者の方の意識も変わって……と、「サステナブル」への動きがどんどん加速していってる感覚がありますね。
古城:授業で学ぶ機会があることは大きいと思います。私自身、環境問題に興味を持ち始めたのは中学校の授業からでした。生物、英語など授業の垣根を越えて様々な教科でSDGsや環境問題について学ぶんです。私が本格的に活動したいと思ったのは、高校2年生のとき。COP25(2019年)に合わせて授業で模擬会議を行ったんです。グループに分かれて「環境問題を自分ごと化して考えよう」と。
発表は英語でしたし、とても大変でしたが、人に教えられるだけじゃなくて、自分で調べて、発表して、その上で質問やディスカッションもしなきゃいけない……そのレベルまで自分の知識を持ち上げて、「自分ごと化」して考える機会があったことがすごく大きかったですね。
坂井:「自分ごと化」というのは、私がELLEをつくる上でも特に意識している点です。先ほども話したように、社会が「サステナブル」に興味を持ち始めたのは、本当にここ最近の出来事。特に日本では、読者に「コンテンツに興味を持ってもらう」「自分ごと化してもらう」ことがとても重要だと感じています。
例えばELLEの読者に対しては、サステナブルに対して前向きなメッセージを出している海外のセレブリティたちの活動を徹底的に掘り下げる。そしてその事実を発信するだけじゃなく、ライフスタイルや、彼女たちが着ているものなど、読者の生活にも関わる情報を混ぜ込むことで「自分ごと化」を促しています。
そのひとつ、2015年2月号のエマ・ワトソンの特集は、ファッション誌としてはとてもインパクトのある記事だったんじゃないかと思っています(🅑)。女優であり、ファッショニスタであるエマ・ワトソンが、社会課題に向かって本気で世界にメッセージを出している視点を、きちんと紹介することで、読者の「サステナブル」への意識を高めることができたと感じています...