固定観念を揺さぶることで新しい企画を生み出そう!
商品・サービスのコミュニケーションにおいて、社会との接点を考える視点は欠かせない要素だ。本稿では、従来の「固定観念」を揺さぶり、今の社会にマッチした価値観を生み出すポイントを解説。広報・PRを行う上での新しい企画発案の参考にしてもらいたい。
ニュースバリューを高める! 企画・発想
コロナで在宅時間が増加。これを背景に、今回はドラマ『私の家政夫ナギサさん』の脚本家と冷凍餃子#手間抜き論争でPRアワードシルバーを受賞した味の素冷凍食品が対談。さらに、バラエティ番組『家事ヤロウ!!!』のプロデューサーに取材し、家事がテーマのPR施策の切り口を探った。
●「手作りこそが愛情の証」
●「家事は女性の仕事」
▶こうした考えが根強く手抜きへの罪悪感がある
●コロナで在宅時間が増加
●家事のイメージが変化
▶家で過ごす時間を楽しむことへ関心がシフト
味の素冷凍食品:ひとつ目は「手づくりこそが愛情」という、“手づくり信仰”の根強さです。2つ目は、冷凍食品は「チンするだけで簡単・便利」という部分だけが語られがちで、それゆえに「手抜きに感じる」という人も多いということです。冷凍食品のメリットはそれ以外にも、必要な分だけ解凍して食べることができるのでフードロス削減にも期待できるなどたくさんありますが、そこはまだまだ伝わっていないのだと感じました。
3つ目が一番強く感じたことで、このコロナ禍で女性の料理の負担が増えたという調査結果も発表されている中でも、食事をつくることの大変さはなかなか理解されにくいことなのだなということです。私は2児の母で、夫は単身赴任中。私自身も、夫が単身赴任になってから減ってしまった子どもたちとのコミュニケーションの時間を創出するべく、冷凍食品を使う頻度が増えていきました。
コロナ禍で人とのつながり・助け合いの大切さを皆さんが再認識しはじめた中、「何を食べるか」よりも時間を「どう楽しく過ごすか」に軸足を置いたときに、「冷凍食品で調理時間の“手間”を抜くことはまったく後ろめたいことではない」ことを伝えられたら良いなとの思いで投稿しました。
2020年8月、冷凍餃子を夫に「手抜き」扱いされた女性のツイートが話題を呼んだ。そこにすかさず反応したのが味の素冷凍食品の公式アカウント。「冷凍餃子を使うことは『手抜き』ではなく『手“間”抜き』ですよ!」。そう反論した投稿は、多くの共感を呼び(同社はその後、冷凍餃子の製造工程を映したWeb動画を配信するなど、さらなる施策につなげた)、PRアワードグランプリ2020シルバー賞を受賞した。
徳尾:原作は家政夫にフォーカスした漫画ですが、「家事労働を平等にするべきだ」といった主題はなく、主人公の会社や同僚の描写も出てきません。ドラマにするにあたって、ラブコメ要素を基本におきつつも、きちんと今の社会情勢に合わせて「当たり前に働いている女性・当たり前に家事をする男性」を描こうと思いました。とはいえ、その部分を取り立てて「新しいもの」として打ち出すこともしない。こうすることで、ドラマを見ている人の背中を押せるのではないか、というのは、当初の段階からプロデューサーらと話し合っていました。
2020年、TBS放送の『私の家政夫ナギサさん』(以下、『わたナギ』)は、電子コミック『家政夫のナギサさん』(著者:四ツ原フリコ)が原作のラブコメディ。脚本は徳尾氏が担当した。主人公「メイ」は、優秀なキャリアウーマンだが、家事が苦手。一方、彼女のもとに現れた男性「ナギサさん」は優秀な家政夫。そして、本作の特徴が、可視化されていなかった家事負担を“仕事”と捉え、「ナギサさん」が家政夫として家事に取り組むのを肯定的に描いている点だ。
徳尾:僕の書き方の好みでもありますが、「今の世の中はおかしいですよね」という表現はあまりしないようにしています。「少し先の日本がこうなっていたらいいな」という世界を当たり前のように描く。その分メッセージ性は弱くなりますが、ドラマとして自然に笑って楽しんでいるうちに、その価値観がいつの間にか浸透していく方が良いなと思うんです。
それは『おっさんずラブ』(2018年、テレビ朝日)のときもそうでした。同性に恋することの壁にぶち当たる人の話ではなく、それが当たり前な状態で「何を悩むか」。一歩だけ先を描くことが、見ている人のペースにも合うのだと思います。
味の素冷凍食品:Twitterアカウントを運用するにあたっては、冷凍食品を使うことに「なんとなく罪悪感がある」「後ろめたく思う」という人たちに対して、応援する言葉をかけたいという姿勢を大切にしていました。旦那さんに冷凍餃子を手抜きと言われた方を「応援したい」と思ったとき、会社として発言するのと目線を合わせた一個人として発言するのとでは、どちらがその方にとって嬉しい言葉なんだろうと考えた結果、あのようなトーンで発信しようと思いました。
徳尾:なるほど。ちなみに、『わたナギ』も「応援する」「寄り添う」という気持ちが根底にありました。会議でもその言葉がよく出てきましたね。そういった作品を手掛ける際は、取材することを大事にしています。『わたナギ』の主人公・メイは、製薬会社のMR(営業担当)でバリバリ働くキャリア女性。そこで、働く女性に関する調査や研究を行う博報堂の「キャリジョ研」に取材をしました。
今の20~30代の働く女性は何を考えていて、会社ではどういう立ち位置にいて、どういうところに時間を取られて、家事をどれぐらいするのか、そのとき家にいる男性は何を考えているのか……。
リサーチをしっかり行うことで、初めて分かったこともたくさんあります。今バリバリ働いている方でも、結婚して家事や子育てに追われたり、仕事も責任のある立場になったりして、30歳前後で多くの人がいっぱいいっぱいになってしまう時期がある。丁度その方たちがドラマを見てくれる層でもあるので、取材で分かったポイントをエンタテインメントとして面白く取り入れるよう意識しました。