オープンやリニューアルが相次ぐ企業ミュージアムやショールーム。そのメディアパワーを検証します。
寺田倉庫「建築倉庫ミュージアム」
倉庫運営の老舗である寺田倉庫は6月18日、東京・品川にある本社の1階に建築模型を展示しながら最適な環境で保存するミュージアムを開設した。世界最高峰ともいわれる日本建築の文化を後世に伝えるアーカイブとして、学生から専門家まで、国内外からの一般来場者に広く公開している。今後は建築文化を考える場として定期的に企画展、イベントも実施していく予定。
寺田倉庫は1950年の創業以来、倉庫業として美術品などの保存・収集・展示のノウハウに通じた企業でもある。本ミュージアムのプロジェクトの発端は、建築家・坂茂氏による「建築模型の文化資産としての保管・展示」についての提言だった。
グローバルでもその関心度合いの高さを実感したのが、2015年に開催されたミラノ万博だ。同年7月に万博会場の周辺で隈研吾氏、坂氏ら日本人建築家40人による建築模型展「ARCHI DE POT TOKYO」を開催したところ、ドイツ・フランスなどのメディアから取材を受けたのだ。「建築模型に対する海外での反響に手応えを感じました」と館長の徳永雄太氏は語る。その後、隈氏と坂氏を筆頭に日本の著名な建築家らに「建築模型の保存と一般に向けた展示の意義」を説き続け、開設にこぎつけた。
館内のコンセプトは「収納庫そのものを展示する」。むき出しのパイプ棚には、21組の建築家・設計事務所が提供した約220点の模型が広がる。「代官山 T-SITE」「東京スカイツリー」の模型や、東日本大震災からの復興を期す地域の小中学校の建築模型まで展示される。建物の全体像を描くのみならず、中の人物まで小さな模型で造られる例が多く、その緻密さに驚かされる。「来館者による模型の撮影は基本的に自由。タブレット端末やスマートフォンでQRコードをスキャンし、建築物の竣工写真などの追加情報にもアクセスできます」と徳永館長。オープン以来、6000人弱を動員している。
PR活動は春に1回とオープン直前にリリースを1回発信したのみ。記者発表の場は設けなかったが、500以上の媒体で紹介された。『Pen』(CCCメディアハウス)、『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)、『東京人』(都市出版)といったカルチャー誌、日経MJなどのビジネス媒体のほか、『おはよう日本』(NHK)や『めざましテレビ』(フジテレビ)、『NEWS ZERO』(日本テレビ)など情報番組でも取り上げられている。「文化プロセスのアーカイブをつくる」という新鮮な発想に注目するメディアが相次いだようだ。
矢吹博志(やぶき・ひろし)PR会社出身。マジックをPRに生かすオフィスパーソナル代表。『夕刊フジ』で「魅惑のショールーム探訪」連載中。 |