地域を活性化させるプロジェクトに携わる筆者が、リレー形式で登場する本シリーズ。今回は、公募で選ばれ、廃止寸前の千葉県・いすみ鉄道を立て直した鳥塚亮社長が、ローカル鉄道という存在を住民に認めてもらうために取り組んだ施策を紹介します。
千葉県・いすみ鉄道は路盤の維持管理費を「宣伝費」として捉え、地域に観光客を呼び込んだ。
地域鉄道が置かれた経営環境
鉄道会社というのは大きな設備投資と減価償却が伴う事業ですから、鉄道業本体では採算をとるのは難しいのが現実です。過去の例を見ても、大手私鉄は宅地開発などを含めた不動産業、スーパー、沿線でのバスやタクシー、ホテル経営といった関連ビジネスを展開することにより、トータルで鉄道事業を成功・発展させてきました。国鉄民営化後のJR各社でも、鉄道業以外に駅構内ビジネスをはじめとする各種関連事業を積極的に展開することで、経営を安定化させています。経営資源を利益が生まれる場所に投資するという点では、関連事業というのは開拓すべき需要が眠っているということだと思います。
一方、地域鉄道はどうでしょうか。第3セクター鉄道は、国鉄から転換した際に、地域の資本で設立された経緯があります。いすみ鉄道が展開可能な分野は、スーパーなどの小売業、ホテルなどの観光業、バスやタクシーなどが考えられますが、これらの事業はすでに展開されていて、地元の事業者の方々とバッティングしてしまいます。他社のように関連事業で収益を伸ばすという手法は通用しません。
地域鉄道が共通して抱えている問題ですが、人口減少が続くような地域で、ただでさえ少なくなっているパイを、鉄道会社が地元から奪い取るような商売をすることは許されないことなのです。
上下分離は万能ではない
こういう経営環境を配慮して、地方鉄道の経営において「上下分離制度」という考え方が主流となってきました。これは、線路の上の部分である列車運行と線路の下の部分である設備の維持管理を分けるという考え方です。自治体を中心とした行政が下の部分にあたる線路の修繕費や管理費を負担し、鉄道会社は上部、つまり列車の運転という営業行為を行うという制度で、近年では全国的に取り入れられています。
なぜこの制度が必要かというと、鉄道の競争相手である路線バスは行政がつくった道路の上を走ることで営業輸送を行えるのに対し、鉄道は線路を自前で維持管理しなければなりませんから ...