地域を活性化させるプロジェクトに携わる筆者が、リレー形式で登場する本シリーズ。今回は、石川県の市役所職員という立場で限界集落を活性化させた高野誠鮮さんが神子原(みこはら)米をブランド化させた流通戦略の考え方について紹介します。
石川県羽咋市の神子原地区で生産されている「神子原米」。
売り手がイニシアチブを握る
売りたいときには、売らないようにすれば良い─。これは実際に、お米の注文を受けていたときにやってみて感じたことです。本当に売りたい場所に置いてもらいたい、と思ったときにひらめいたのは、「お願いですから、お宅の店舗に置いてください」とお願いしないという方法でした。
当時、市役所の農林水産課にお米の注文や問い合わせが来ていましたが、この考えをもとに「東京都世田谷区成城」というお客さまの住所を聞いた瞬間、「もうなくなりましたと答えてくれ」と職員に咄嗟に耳打ちしました。そして私はすぐに、電話の応接マニュアルをつくりあげました。
それは、世田谷区成城、田園調布、自由が丘、白金などの高級住宅地と呼ばれる地域からお米の注文が入ったときには「残念ながら売り切れました。デパートにお問い合わせください」という回答をしてほしいというものでした。販売する米があるにもかかわらず、特定住所からの注文はお断りしました。すると、60件ほどお断りをしたころ、おもしろい電話が入ってきました。日本橋にある有名老舗デパートのバイヤーT氏からです。少しでも残っているなら全量取引させてほしいという要望でした。どのようにすればデパートから注文が入るのかを試したひとつの例です。
一般庶民や地方の役所からの意見が高級デパートに聞き入れてもらえることは、ほぼないでしょう。こちらが高級デパートに、お願いですから置いてくださいと依頼したところで、叩かれてしまうのがオチです。この施策からは、上得意さまからデパートに問い合わせが入ると、デパート側は置かざるを得なくなるという構図が読み取れました。
さらに、一般的にデパートに置いてほしいとお願いしても門前払いか、了承されても条件はとてもきつい内容になってしまいます。しかし、デパート側から売ってくださいと依頼が来たら、条件はすべて売り手側次第となります。米袋を87円でつくっても …