一生かけて追求する価値のある「PR」の仕事の未来像を描こう
新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
米国PRのパラダイムシフト
米国では近年、企業の競争力として従業員のエンゲージメントを重視する傾向にあり、インナー向けのPRコンテンツを外部へのPRにも活用するといった動きも見られる。読売新聞記者、PR会社を経て米国で活動する岡本純子氏が先進事例を解説する。
雇用の流動化、経済情勢の変化などで、日本企業の「家族的経営」の色合いが薄まるにつれて、従業員と経営陣との意思疎通や絆づくりは企業業績をも大きく左右する優先的な経営課題となりつつある。今回は、従業員・社員とのコミュニケーションにおいては、一日の長がある米国企業の先進事例を取り上げ、その最前線の動きにスポットを当ててみよう。
日本では、インナーコミュニケーションという言葉がよく使われるが、これは和製英語。米国では通常、Internal communicationsもしくはEmployee communicationsという言葉が使われる。この分野で特に、良く聞かれるキーワードがEmployee engagementというものだ。
Employee engagementとは、企業と社員の関係性を示す言葉で、日本語では適切に表現する訳語がなかなか見つからないのだが、engagementを直訳すると、「従事」「関与」。要するに「社員が企業に対して、どれぐらいの愛着やコミットメント、忠誠心や士気や誇りを感じているか」ということだ。そういった気持ちを持つ社員が多ければ多いほど、企業の競争力は増し、高い利益を生み出すことができるというわけだ。
世界的な調査会社、ギャラップ社が2011年から2012年にかけて142カ国、20万人以上を対象に行った調査で、「会社に対して、engagementを感じている」という人は世界平均でたった13%しかいなかった。63%はNot engaged(engagementを感じない)、24%がActively disengaged、つまり反感に近いものを持っている、と回答したのだ。
このengagementの意識は国によって、大きくそのレベルが異なる(表1)。米国(30%)が特に高く、中国は6%と低く、日本も7%とかなりの低水準だった。米国などに比べ日本人社員は自分の会社に対する帰属意識が高い気がするが、コミットメントや絆という物差しでは、まだまだ足りない側面があるのかもしれない。
文化や人種の多様な人材を包含し、雇用の流動性も高い米国では伝統的に、企業が社員を融合し、一体感を醸成するツールとしてインターナルコミュニケーションに熱心に取り組んできた。Employee engagementを高めるために最も大切なのはコミュニケーションであるという認識も高く、ゆえにこの分野はHR(人材開発)だけではなく、PRの重要な領域と目されている。インターナルコミュニケーションには様々な活動があるが、主だったものには以下のようなカテゴリーがある。
●CSR活動
…社員参加のチャリティ活動など
●社員向けのユニークプログラム・キャンペーンの実施
… ダイエットや健康増進のための活動などを支援するプログラム
● 社員の福利厚生プランのPR
…ヘルスケアプランなどの告知、周知、参加呼びかけ …