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実践!プレスリリース道場

メディアがメディア掲載を狙った 昭文社のリリースを分析

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを紹介する「リリース道場」。今回は昭文社による、メディアがメディア掲載を狙ったリリースを紹介します。

従来の枠組みを超えた発想

この連載では初めてとなる出版社のリリースを取り上げます。従来、書籍のPRといえば広告か、その本の担当編集者が個人的なツテを頼って一生懸命PRしているケースがほとんどでしたが、昭文社では経営企画室の中に広報担当者をきちんと立て、リリースを配信してPRを行っています。そうしてヒットに結びついたのが、自動車なしで旅行する人向けのガイドブック「tabitte(タビッテ)」シリーズです。

そもそもこの企画は、定番の「まっぷる」や女性向けの「ことりっぷ」などの人気旅行ガイドシリーズとは違ったセグメントで大型シリーズを生み出したいという思いから、2013年に社長が発案した新企画プロジェクトを起点として生まれました。そこで社内から20~30代の若手8人を選んだのですが、ユニークなのは編集部門だけでなく総務や子会社など様々な部署から人材が集められたこと。4人ずつ2組に分かれ、終業後に集まって企画を練りました。そして役員が集まる場で各組2案ずつプレゼンをし、社長の最終決断で「tabitte」シリーズが採用となりました。提案者の企画に対するこだわりが面白かったこと、道路地図をメインにしてきた同社にとって「車を使わない」斬新さが決め手となりました。

発案したのは20代の女性編集者で、自身も旅行は“公共交通機関を使う派”。「tabitte」にはそういう人ならではのアイデアがたくさん詰まっています。例えば路線図を運行頻度で色分けすることで、本数が少ない路線に注意できるようにしたり、高速道路よりも鉄道が目立つようにしたり、駅から徒歩何分でどこまで行けるか分かりやすくするなど、徒歩向け情報を強化しています。さらに従来のガイドブックでは、車で行くのが最も効率的と判断していた遠方スポットでも、時間がかかっても公共交通機関で行ける方法を示しています。

新鮮なのは書籍の袋とじの中にあるQRコードによって、書籍上に載せられなかったディープな現地ネタなどをスマートフォン上で見られること。出版界の「本だけで完結したい」という意識が根強いなかで、自由な発想ができるのも若い人ならではなのでしょう。アプリは200万ダウンロードを超え、購入者からも「こんなガイドブックが欲しかった」との声が届いており、売れ行きも当初の計画を1~2割上回るほど好調に推移しています。

広報自身の愛着は伝わる

このリリースをつくったのは経営企画室の竹内渉さんで、同じく広報担当の和田史子さんとともにシリーズのPRに努めてきました。私としてはまず …

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