危機を乗り越えるための対応方法は、世間を賑わせる時事ニュースの中から学べる点が多くある。取材される側と取材する側の両方を経験し、広報業界を30年以上見続けてきた作家・ジャーナリストが、危機対応の本質について解説する。

ソニー「VAIO」、発火の恐れで無償修理の受付開始
ソニーは4月24日、2月に発売したノート型パソコン「VAIO Fit 11A」のバッテリーを無償で交換すると発表した。世界で販売した約2万6千台(うち国内は約3600台)が対象。バッテリーパックの過熱により、本体の一部が焼損する可能性があるとし、ホームページ上で注意を喚起しているが、問題のバッテリーパックはパナソニック製。リコール告知の中でも、両社の「広報戦略」の違いが見てとれた。
「広報戦略」とは何か。「戦略」とは、「戦いに勝つための大局的な策略」である。策略は「相手を自分の望んでいる事態に陥らせるためのはかりごと」。したがって、「広報戦略」は「広報が考えているようにメディアに報道させるはかりごと」という意味になる。ところが現実は、そうはいかない。「リコール(無償回収・修理)告知」のような企業不祥事に関するテーマは特にそうだ。
「リコール」と聞いて多くの消費者が真っ先に思い浮かべるのは自動車だろう。自動車のリコールは頻繁に行われ、日常茶飯の観を呈しており、消費者の反応も鈍感になってきているが、「たかがリコール、されどリコール」である。トヨタは、2009年から10年にかけてアメリカで発生した大規模リコール問題で、情報開示が遅れたとして社長が米下院公聴会に喚問されるという大事件に発展。今年3月に司法省に12億ドルの制裁金を支払えとの判決が出た。古い事件では、三菱自動車が2000年にリコール隠しを行ってメディアから袋叩きにされ、企業存亡の淵に立たされている。
今回取り上げるのは、“家電界の竜虎”とも言えるソニーとパナソニックの「リコール告知」をめぐる広報対応についてだ。
リコール社告から見える広報姿勢
ソニーは今年4月24日に ...