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時事ニュースから読み解く、危機対応の本質

「言い訳」が目立った、ソニーVAIO事業売却の広報

城島明彦(作家・ジャーナリスト)

危機を乗り越えるための対応方法は、世間を賑わせる時事ニュースの中から学べる点が多くある。取材される側と取材する側の両方を経験し、広報業界を30年以上見続けてきた作家・ジャーナリストが、危機対応の本質について解説する。

他社事例をメディア視点で捉える

広報の仕事に携わる人が心がけなければならないことは何か。

世の中の動きに敏感であること。異業種の世界で起こった出来事や事件から学んだことを自社の広報戦略にフィードバックできるようにすること。メディアの報道を鵜呑みにしないこと。テレビや新聞が報道するニュースは、事実関係や時系列を知るためにだけ利用し、あとはテーマごとに自分の頭で考え、自分の言葉で手短にまとめる習慣をつけるようにすること──。

広報担当者は、ときには取材するメディア側の立場に立ってみることも必要だ。他社の記者発表を素材にして、どんな記事に仕立てるかを考えるのだ。立場が変わると視野が一変し、メディアが広報に対して何を求めたがるのかが見えてくる。次の2つの記者発表は、格好の素材だ。

    ・2014年1月30日 NECによる子会社の「NECビッグローブ」の売却に関する記者発表

    ・2月6日 ソニーによるパソコン「VAIO」の売却に関する記者発表。

1社だけの出来事として捉えると視野狭窄(きょうさく)に陥るが、両方を広角的・俯瞰的に眺めると見えてくるものがある

広報発表の背景を探る

ビッグローブとVAIOの共通点は何か。調べてみると、どちらも1996年に誕生していることがわかる。ビッグローブは、ヤフー・ジャパンが誕生した3カ月後にスタートした日本の草分け的プロバイダーであり、VAIOは最後発のパソコンながら、斬新なデザインとAV機能を売り物にして短期間で世界の人気商品となった。それから18年後の今年、両社はともにその事業に終止符を打ったのだ。しかも、売却先は同じ投資ファンド(日本産業パートナーズ)だった。

日本のパソコン関連事業が世界市場を席巻した時期もあったが、いまやスマホに取って代わられつつあり、おそらく今年で販売台数が逆転するだろうと言われている。

2014年は時代の大きな節目か

IT調査専門のIDC Japanが今年1月9日に発表した「2013年のパソコン世界出荷台数ランキング」で、日本企業はベスト5に入っていなかった──1位レノボ(シェア17.1%)、2位HP(16.6%)、3位デル(12.0%)、4位エイサー(7.6%)、5位ASUS(5.9%)。レノボは中国、HPとデルはアメリカ、エイサーとASUSは台湾のメーカーで、日本企業は十把一絡からげの「その他」へ凋落、ソニーのシェアは2%未満という結果だった。

こうした動きも視野に入れると、NECとソニーの事業撤退記者発表の時期が一致したのは、単なる偶然ではなく、「ウインドウズ95の発売に端を発して続いてきた時代が、音をたてて崩れていることを象徴する大事件」と捉えることができる。そして、どんな企業もこの流れとは無縁でいられず、今後の広報活動にも大きな影響が及ぶ可能性がある。これが記者の視点だ。

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