危機を乗り越えるための対応方法は、世間を賑わせる時事ニュースの中から学べる点が多くある。取材される側と取材する側の両方を経験し、広報業界を30年以上見続けてきた作家・ジャーナリストが、危機対応の本質について解説する。
国家の「自虐報道」にまで発展
韓国旅客船「セウォル号」沈没事故で逮捕されたイ・ジュンソク船長。韓国検察当局などの合同捜査本部は、乗客らを救助せず死なせたとして、船長ら運航に直接携わる「船舶職」4人を5月15日、殺人罪で起訴した。韓国史上最大の海難事故となった同事件だが、「三流国家」「韓国社会にごまんといるセウォル号船長」など韓国メディアが次々と展開した“自虐報道”も注目を集めた。
人命を預かる企業の責任と義務
4月16日に起きた韓国籍大型フェリー「セウォル号」転覆事件は、事故から1カ月が過ぎた時点で、乗船者447人中死者行方不明307人。海難史に残る大事故となった本件で次々と明るみに出たのは、“危機管理のデパート”ともいうべき驚くべき出来事のオンパレードだった。
(1)船体バランスを危うくした過積載、
(2)(海難事故の多い海域で)経験の浅い女性3等航海士が操船指揮、
(3)契約船長の職場放棄、乗組員の船客誘導業務放棄、
(4)「船室から出ないように」と誤指示を繰り返した船内放送、
(5)通報を受けた海洋警察の救助体制のお粗末さ、
(6)情報の混乱を招いた事故当初の政府広報の誤報(「368人が救助された」としたが、すぐに撤回)、
(7)被害者・家族の心情を無視した過剰取材・過熱報道に対するメディア不信、
(8)船会社の実質的経営者の雲隠れ......。
実は、本件でメディアから問い合わせを受けた。かつて書いた『船と船乗りの物語』という本の内容を使わせてほしいという依頼だった。この本の執筆に際しての取材で、私は日本のとあるコンテナ船に乗り込んで船内をくまなく見て回り、船長・機関長・一等航海士を密着取材した。難所と呼ばれる海域や船の往来が激しい湾内などを航行したときの彼らの緊張感・危機感・責任感は半端ではなく、人命を預かる仕事をする人の覚悟のほどを思い知り ...