商品が売れる場所「売り場」にいる消費者のことを、どれだけ把握することができているだろうか。なぜいま、メーカー企業がショッパーのインサイトを知る必要があるのか、どのようにして分析を行っていくべきなのか、ショッパーマーケティングの歴史を踏まえて、早稲田大学商学学術院 教授の守口 剛氏が解説する。
ショッパーマーケティングは、2000年代中頃から主として実務界で注目されてきた考え方。P&GのCEOであったアラン・ラフリー氏が“the First Moment of Truth”という用語を導入し、ショッパーが店頭で製品に接した瞬間の重要性を強調し始めたのは2005年のことです。ユニリーバにおいても、ショッパーマーケティングへの活用を意図した「トリップ・マネジメント」という調査手法を開発し、2004年から実施しています。
コカ・コーラも、ショッパーマーケティングにいち早く取り組んできた企業のひとつです。日本とドイツにおいてSBL(Shopper Behavior Landscape)と呼ばれる分析の仕組みを2007年に導入し、2008年にはそれを改良したものを世界共通の仕組みとして展開しました。
このように、2000年代中頃から注目され、その後定着してきたショッパーマーケティングが現在再び注目されている大きな要因のひとつは、リテールメディアの隆盛だと考えられます。
流通企業が提供するアプリ、店頭でのデジタルサイネージなどのリテールメディアは、買い物中または買い物準備中のショッパーに働きかけるものであり、この点が他のメディアにはない大きな特徴と言えます。リテールメディアを効果的に活用するためには、それをショッパーマーケティングのツールのひとつとして位置づけ、訴求ポイントや表現方法を他のツールも含めて有機的に連動させることが重要です。
ショッパーは買い物から得る“便益”で意思決定を行う
マーケターの視点で消費者を捉えると、製品を「使用するユーザー」と「購入するショッパー」という2つの側面があります。その側面の相違は、さらに2つの観点で捉えることができます(図1)。
そのうちの1つは、両者が物理的に異なる場合です。例えば家庭の主婦が、子供が食べるおやつや夫が飲むビールを購入するようなケースは、ユーザーとショッパーが物理的に異なる典型的な例だと言えます。近年では、多くの製品領域でパーソナルユース化が進んでおり、そのこともユーザーとショッパーが異なるケースを増加させる要因だと考えられます。
さらに、同じ消費者のなかで、ユーザーとしての側面と...