「てがき翻訳」は、スマートフォンなどの画面上にフリーハンドで書いた言葉を翻訳する、ドコモのサービスだ。今年、訪日客のさらなる増加が見込まれるなか、同サービスはいま羽田空港国際線ターミナルでの導入に向けた実証実験を行っている。アプリの開発背景と導入するメリットについて、ドコモの小栗伸氏と、東京国際空港ターミナル 旅客サービス部の染井彩美氏に聞いた。
ドコモの「てがき翻訳」は、相手の声が聞こえづらいような騒がしい場所でも使えるのが強みだ。
出張中の「気づき」から生まれた翻訳アプリ
─なぜ、「てがき翻訳」を開発することになったのでしょうか。
小栗 伸氏▶ 私が海外出張した際、宿泊したホテルのスタッフの方が、紙に文字を書いて、手渡してくれたんです。それがきっかけで、「これ(手書き)は便利だね」という話が持ち上がり、開発をスタートさせました。
「てがき翻訳」は、「ドコモの翻訳」のサービスのひとつです。対面で外国の方と話す際に使える「はなして翻訳」や、メール内容を翻訳する「メール翻訳コンシェル」、写真のなかのテキスト要素を読みとって翻訳する「うつして翻訳」など、さまざまな利用シーンに見合うサービスの開発に取り組んできました。
根底には、訪日外国人や、日本人が海外へ赴く際のサポートとなるサービスを広げたい、ひいてはコミュニケーションを豊かにしたいという思いがあります。
─「てがき翻訳」の特長は? どんな場面で力を発揮するサービスですか。
小栗氏▶ 「てがき翻訳」の特長は、スマートフォンやタブレットの画面に書いた、「手書き」の言葉をそのまま翻訳できる点です。また、手描きのイラストを添えることもできます。
たとえば、道を聞かれた際、かんたんな地図を描き、言葉で補足するような使い方を想定しています。
Webサイトや画像を読み込んで表示することもできることから、その上に文字を書いて翻訳するといった利用も可能です。
「てがき翻訳」には、音声翻訳を補完するメリットもあります。相手の声が聞こえづらいような騒がしい場所でも使えるのも強みです。
また、初対面の人のスマホに向かって話すことに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、「手書き」であればそうした心理的なハードルが低くなると考えています。
表示した地図上に直接書き込んで案内することができる。
─羽田空港で「てがき翻訳」を導入することになったきっかけはなんですか。
染井彩美氏▶ 当空港でも、言語対応が多岐にわたるようになったためです。2016年時点での就航便数は週765便となり、一昨年と比較すると、週に75便増えました。乗り継ぎで利用される方が増加したことも多言語対応強化が求められることとなった要因です。
とはいっても空港内の店舗などで、外国語が堪能な人材ばかりを揃えるのは現実的ではありません。そこで、お客さまとのコミュニケーションを助けるツールとして、まずはインフォメーションでの実証実験を行うことにしました。
また、「てがき翻訳」本来の使用目的とは少し異なるのかもしれませんが、私どもとしては、「筆談ボード」のように、障がいのあるお客さまとの対話にも使える点が魅力的に映りました。
さらに、ほかのさまざまなアプリとも連動するのもいいところ。ピクトグラム(サイン)を用いたゆびさし会話集からはじめ、伝わらなければ音声※、手書き、最終的には通訳オペレーターにつないでと、次善の策をスムーズに提供できる点もメリットかと考えています。
「コンシェルジュ」の知識を誰でも提供できるように
─実際に導入してみて、どんな課題が浮かびあがってきましたか。
染井氏▶ 「てがき翻訳」に限りませんが、翻訳精度は高ければ高いほどありがたいです。精度の高さとアプリへの信頼は、相乗的に高まるものだと思いますので。小栗氏 実験を通して、ただ単に翻訳するだけではなく、コンシェルジュの方と同じようなていねいな言葉づかい、失礼のない翻訳をする必要性を再認識しました。空港などのシチュエーションに特化し、チューニングしているのは、そのような現場の生の声に基づいた改善を行うためです。
─今後、どんなことができるようになりそうですか。
小栗氏▶ 使用頻度の高いフレーズを分析するだけでなく、「どのような応対をしたか」といった使用者の履歴をすべてデータで見ることができるんです。それをゆびさし会話集、翻訳結果などにフィードバックし続けています。
最終的には、ある程度の用件なら、スタッフを必要とせず、お客さまだけでアプリを操作しても、コンシェルジュが応対するような回答を出せるようにしていきたいと考えています。
シチュエーションごとに、適切な翻訳結果というのは異なる場合もありますので、現在は業界ごとにそのデータを蓄積し、チューニングしていくというアプローチをとっています。
染井氏▶ 英語・中国語・韓国語以外の言葉を話されるお客さまがいらっしゃったときにも頼れるツールであってくれたら、と思います。
代表的な言語はコンシェルジュでも対応できるのですが、それ以外となると困るケースもありますので。「てがき翻訳」の進化が楽しみですね。
「てがき翻訳」活用のPoint
- 聞きとりづらい場所でもコミュニケーションできる
- 手書きのほうがスマホに向かって話すよりも心理的ハードルが低い
- 蓄積した利用データを活かし、さらに柔軟な翻訳ができるよう常に改善
民泊サービスを展開するアイバケーションは、ドコモと、民泊向けの翻訳サービス共同実験を昨年10月に開始した。同社が提供する民泊向けIoTデバイス「TATERU Phone(タテルフォン)」に「てがき翻訳」を搭載。訪日外国人観光客に直接リーチし、顧客の声をもとにサービス改善に活かす。
お問い合わせ
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ドコモ・コーポレートインフォメーションセンター 0120-808-539
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