「いまの若いヤツは何を考えているのかわからないなあ」。こんなセリフが口をつきそうになったことはないだろうか。「若者の○○離れ」などと紋切り型にとらえず、きちんと本音を聞き出したいものだ。このほど、新書『若者はなぜモノを買わないのか』を上梓した、リサーチ・アンド・ディベロプメントの堀好伸氏に、若年層世代の攻略法を聞く。

「U26平成男子コミュニティ」の様子。まるで「部室」で話しているかのような気安さで、ホンネが飛び出してくる。撮影時は民泊サービスの生々しい活用法が話に上がった。
「若者の○○離れ」はウソ
U26世代の消費特性
「若者はモノを買わない」─こんな言説を見聞きする。「若者の○○離れ」のフレーズは決まり文句と化した。
「若者がモノから離れたのではなく、大人が期待するモノを買っていないだけで、彼らなりの消費を楽しんでいる」。クロス・マーケティンググループのグループ会社リサーチ・アンド・ディベロプメントのビジネスプロデューサー、堀好伸氏はこう話す。
「若者の消費しないイメージは、40歳代以上の大人と、20歳代の若者の間にある価値観の差。大人は、“一定の年齢になれば持つはずのモノ”を、若者が買わないことに目が向きがちだが、それを“若者が消費しない”と解釈すると、購買の機会を失いかねない」
では、若者特有の消費スタイルを理解するにはどうすべきか。彼らの本音を見抜き、購買意欲を高めるポイントを探すため、堀氏は2014年1月、首都圏に住む20歳~26歳の独身男性を集め、「U26平成男子コミュニティ」(U26)を組成した。
男性に着目した理由について堀氏は、「女性は比較的消費意欲が高い。かつてのような男女間の垣根はなくなりつつあり、市場が広がった。では男性はどうか。きちんとした調査がなく、知見に乏しかった」と話す。
「U26」の16年10月時点でのメンバーは18人。実際に集まったり、スマホアプリを介して話したり、堀氏も輪に加わり、オンライン/オフライン問わずコミュニケーションを続けてきた。そこで見えてきたU26特有の消費性向が堀氏の提唱する「シミュレーション消費」だ。
「面白かったけどつまらない」
複雑な消費感情
「『シミュレーション消費』を理解すれば、若者世代に向けてどうコミュニケーションを図ればいいか、糸口がつかめるはずだ。現に、この消費性向に合致した手法で成果をあげた企業もある」と堀氏は主張する。
そもそも「シミュレーション消費」とは何か。これは「情報収集の結果、体験した感覚を得てしまうため、購入へのハードルが上がってしまう」現象とも言えるものだ。
「面白かったけど、“つまらなかった”」─こんなコトバが、ある「U26」参加者の口から飛び出したことがあった。最近した旅行を振り返っての感想だった。
最近では、たくさんの情報を元に旅行を計画できる。旅行会社の案内のほか、行った人のレビューを読んだり、現地の写真や動画を見たり。こうして情報を集めるうちに、旅先のシミュレーションができてしまう。
「面白かったがつまらなかったという一見矛盾した言葉は、旅行先での体験が想定内だったために出たのではないか。今回は、旅行自体はしていたが、情報を集めるだけで満足してしまい、行動に移らないケースも少なくない」
「シミュレーション消費」には、やはりスマートフォンの影響が大きい。YouTubeをはじめ、InstagramやTwitterのようなソーシャルメディアでも動画付き、写真付きでの投稿が増え、「見たことのない光景」へ簡単にアクセスできるようになった。旅行に限らず、商品であっても、広告とは異なる実際の見た目、タレントではなく一般消費者が使った際の実感や利用シーンを目にできる。
そうするうち、当の商品やサービスは、「本当に自分にとって必要なものなのか」
という自問自答が始まる。そして考えているうちに「特に必要なさそうだ、と、購買意欲が衰退してしまう」のだ。
これが「シミュレーション消費」の正体だ。
『若者はなぜモノを買わないのか』
本体890円+税/青春出版社

「ゆとり」「草食系」「さとり」――世間で言われるがままに若者をとらえていると、大きな損をするかもしれない。上から目線でもなく媚びるでもなく、若者世代をフラットに眺めてみよう。若者世代をマーケットに変えるヒントが見えてくるはずだ。
シミュレーションを凌駕する
真実を浴びせかける
この「シミュレーション消費」の壁はどう超えればいいだろう。堀氏は、「シミュレーションを打ち崩せるのは、リアルしかない」と語る。
「商品に触れたタイミングで、想定を超えるような体験を与えること。シミュレーション前に気持ちを盛り上げられるかどうか、店頭がカギとなる」
うまく機能しているケースとして堀氏はヴィレッジヴァンガードを例に挙げる。「U26」でも、「本屋って書いてあるけど、何でも揃ってるし。置いてあるもの、すべて面白くないですか? ヴィレヴァンで見つけると、同じモノでも違って見えます」と話に上がった。
発見の面白さに加え、ヴィレヴァン名物の黄色いPOPもポイントだ。独特のキャッチフレーズが顧客と店員とのコミュニケーションツールになっている。シミュレーションを積極的に提供してしまうのも手だ。
クルマを共同利用する会員制サービス「カーシェアリング」事業を手がけるタイムズ24は2015年11月、ある調査結果を発表した。カーシェアリングを利用した後、18歳~24歳の74%が「クルマに対し、以前より興味を持つようになった」というものだ。全年齢では33%だった。有効回答者数は会員1万3956人で、会員の年代構成では20歳代以下が2割超。
また、「カーシェアリングを始めてから、自分のクルマが欲しいと思った」と回答した人は18歳~24歳で36%だった。全体では19%だった。
日本自動車工業会の15年度乗用車市場動向調査では、若年層(20代以下)でクルマに「関心がある(非常に+まあ)」と答えた人は800人中31%だった。クルマを「買いたい」とした人は13%だった。
両調査を比べると、カーシェアリングが関心や購入意向にポジティブに働いたことが伺える。「利便性の実体験」という一つ上のシミュレーションが購買に寄与するとも言えそうだ。共同利用するクルマを置く「カーステーション」近くのディーラーは、客数や販売台数が増えたという逸話もある。
「『シミュレーション消費』を超えるのは本物のもたらす感動。例えばU26世代はビールへの関与度が低い傾向にあるが、工場見学を経ると、親近感を抱くケースもある。
企業は『若者の○○離れ』という先入観にとらわれず、彼らを消費者として認識し、『シミュレーション消費』の特性を理解した上で、商品のリアルをきちんと伝えるほうがいい。中途半端なリアリティでは逆効果。ネットなどから得られる情報とはギャップのある真実を伝えれば、驚きと共に魅力を受け止めてくれるはず」

クロス・マーケティンググループ
リサーチ・アンド・ディベロプメント ビジネスプロデューサー
堀 好伸(ほり・よしのぶ)氏
広告会社、ブランディングブティックでのプランナーを経て、現在は主に、消費者インサイトを得るための、「共創コミュニティ」のデザイン・運営に携わる。消費者の生の声を生かし、さまざまな企業の戦略マーケティング業務に携わる。
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