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ショッピングモールで50m走?為末大が目指す「日常のスポーツ化」

為末 大

従来、企業によるスポーツの販促活用と言えば、プロチームやスポーツイベントへの協賛が一般的だった。しかし、単なる協賛ではなく、もっと“スポーツ自体の力”をプロモーションに生かすことはできないだろうか。2007年、東京・丸の内で陸上競技を実演するイベント「東京ストリート陸上」をプロデュースするなど、現役アスリート時代からスポーツのあり方を模索する為末氏に、その可能性を聞いた。

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スポーツブームのキーワード
「自然回帰」と「コト的価値」

─企業が、スポーツを集客コンテンツとして活用することのメリットは何だと思いますか?

まず、ドラマが生まれる確率が高いこと。朝日新聞社の高校野球大会や読売新聞社の箱根駅伝のように、メディアがスポーツイベントを持つのもそのためです。新聞にニュースを載せたくても、明日どんなことが起こるかは分からないけれど、スポーツイベントでは必ず話題が生まれる。それがスポーツの、コンテンツとしての魅力の一つだと思います。

一方で、観戦されることを目的としたスポーツとは別に、健康やレクリエーションのための運動を自ら楽しむ人が増えているのが最近の傾向だと思います。その理由を考えてみたのですが、大きな流れとしては、“自然な生き方”に回帰しているのではないでしょうか。

人間はこれまで進化の過程において、移動していない時代がなかったとされています。大陸から大陸へ、大移動を繰り返していた。それが定着したのはここ数百年くらいのことで、この「止まってしまった」ことに違和感があるのではないでしょうか。動かないことへの弊害を人々が感じ始め、そもそもの自然な状態への回帰が起きているのではないか、と。脳科学や医学の発達に伴い、運動と脳の関係が想像以上に深いことも解明されてきています。長い時間の中でつくられた身体の機能に従い、運動しているのが「自然な姿らしい」と分かってきたことが、大きな流れとしてあるかもしれません。

短期の流れとしては、東日本大震災をきっかけとした“経験価値の重視”があると思います。震災以降、物質的な価値よりも“コト的”な価値、つまりストーリー(物語)やエクスペリエンス(経験)を重視する風潮が高まった気がします。モノを買う際にもストーリーを欲する人が増えていますよね。こうした流れが、近年のヨガやランニングブームをさらに加速したのではないでしょうか。

衣食住の領域に拡大しつつあるスポーツ

─そういった社会の気運を商業的に生かすために、スポーツイベントへの協賛という方法以外では、どんな可能性があるでしょうか。

今、スポーツが人々のライフスタイルに入り込みつつあると感じています。例えば、仕事を中心に生活する人や家族との時間を大切にする人がいるのと同様に、スポーツを中心にライフスタイルを組み立てる層が生まれている気がします。そもそも現代人のライフスタイルが細分化している中で、その一つのジャンルとしてスポーツが確立してきているのではないでしょうか。

つまり、スポーツ自体というよりも「スポーツのある生活」が浸透しつつあるので、その潮流をいかに販促に取り入れていくかが重要だと思います。これまでは一部の愛好者のものだったスポーツが、広く一般生活者の衣食住といった領域に広がっているのです。スポーツをしやすい家や街なども、商品として登場するかもしれません。その流れを取り入れれば、スポーツ関連の商材に限らず、生活にかかわるすべての商材を、スポーツによってプロモーションしていけるのではないでしょうか。

それと、スポーツと販促の関係を考える時にポイントとなるのが“場”です。分かりやすい例で言うと、体育館の中にスポーツ用品専門店を設けて、スポーツする場所と買う場所を融合させれば、スポーツ関連商材の売り上げはきっと上がりますよね。ロンドンオリンピックの際に訪れた陸上競技場は、場内ではありませんが、最寄り駅から競技場に行くまでにショッピングモールを抜けるような都市設計になっていました。スポーツの場と生活の場、つまり買う場がとても近かったのです。

日本も2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、競技場を中心とした都市計画という考え方は出ていると思います。そうなると、今後は「スポーツのある生活」が、都市の単位で実現していくのではないでしょうか。

日常の“スポーツ化”で商業施設に集客する

今の日本における、スポーツの一番の問題は、スポーツの領域に入るための準備に手間が掛かること。ウェアと用具をそろえ、施設を予約して、やっとスポーツできる。そうではなく、例えば街中にボールがあって、歩いている人が急にリフティングを試せるような気軽さというか、日常からスポーツに入る境界線をいかに薄められるか。言い換えれば、いかに生活を“スポーツ化”していくかということが、これからのスポーツにとっては大切な気がします。

例えばショッピングモールの中に50m走のコースがあって、買い物に来たついでにタイムトライアルができたら面白いですよね。走り終えたらまた、そのまま買い物を続けるような気楽さがあると良い。記録更新がモチベーションになって、そのモールにもっと行きたくなるのではないでしょうか。

僕の言う“生活のスポーツ化”は、“ゲーミフィケーション”に近い意味です。日常のさまざまなシーンを、身体を動かして参加する“ゲーム”にしてしまうイメージ。そこにはテクノロジーの進化が貢献していくと思います。近年では、対象店舗への来店に対してポイントが付与されるようなO2Oアプリも登場していますが、同様のアプリを使って、例えばショッピングモールの敷地内がそのままオリエンテーリングのフィールドになるような体験を、商業施設側が積極的に提供していくなんてどうでしょう。それも十分スポーツになりえます。スポーツのための施設を用意するのではなく、スポーツする場をいかに街中にしみ出させ、日常から隔たり無くスポーツに入れるような文化にしていくか。それが個人的に感じている今の課題です。

こうしたコンセプトに基づいて挑戦したのが、東京と広島でそれぞれ開催した「ストリート陸上」です。同イベントでは、都市の中心地に陸上競技を引っ張り出したわけですが、スポーツと関係のない領域でスポーツを行うイベントはその後も続けています。例えば、今年6月には広島西飛行場跡地(広島県)の滑走路に50mコースを8本設け、県内の小学生を対象に走り方を教えるイベントを開催しました。広島市内を中心に、ユニークな場所でスポーツするイベントは今後も続けるつもりです。

東京ストリート陸上

「東京ストリート陸上」
為末氏は2007年5月、東京・丸の内の路上で陸上競技を実演するイベント「東京ストリート陸上」をプロデュース。街中を陸上競技の会場にすることで、同氏が目指す「生活とスポーツの"場"の融合」を体現した。

「ひろしまストリート陸上」
「東京ストリート陸上」を転換し、2011年からは毎年、広島県で同様の「ひろしまストリート陸上」を開催している。13年の開催時には1万人の観衆が集まった。

「広島かけっこキャラバン」
2013年6月には、飛行場跡地の使われていない滑走路で50m走のタイムを測定するイベント「広島かけっこキャラバン」を開催。為末氏自らが子どもたちに走り方を教え、スポーツの楽しさを伝えた。同イベントは11月、14年3月にも開催が予定されている。

シニア層の集客はゲームセンターを見本に

─スポーツの販促活用というと、今はスポーツ関連商品の販売が中心ですが、今後はどういった商材に活用のチャンスが広がると思いますか。

ちょうど五輪の東京開催が決まったタイミングでもあるし、今は2020年に向け、スポーツ関連業界に限らずあらゆる業界が、“スポーツ的な市場”に参入できる好機だと思います。

特に相性が良いと思うのは、電機メーカー。ウェアラブルコンピューターに象徴される次世代デバイスは、スポーツとうまく組み合わせて価値提案することで、普及を加速できるでしょう。ほかにも、スポーツという切り口で、コンタクトレンズやメガネの新たな価値を提案することもできると思う。人が身に着けるような商材は、スポーツによる価値提案と相性が良い気がします。

同時に今、興味があるのが、ITを使った新スポーツの登場です。牛の胃袋に綿を詰める技術が生まれたことでボール競技が誕生したように、新しい技術は新しいスポーツを生み出す可能性があります。しかし現状、スポーツにITを使うという発想はあるけれど、IT技術が必須の競技は登場していません。例えば、世界中に正方形の箱があって、その中に入ると世界中の誰とでも、光の球を打ち合うゲームができたら楽しそうですよね。任天堂「wii」のゲームなどがイメージに近いですが、もっと自分の肉体を使ってできる競技が、近い未来には登場すると思います。IT技術を使えば物理的な距離も関係ありませんし、世界同時リーグも可能です。ゆくゆくは、そういった競技がオリンピックやパラリンピックの種目に入ってくるかもしれません。

そういった意味でも、テクノロジーとスポーツの関係は今後、どんどん深まっていくと思います。ですから7年後の東京五輪について、競技場内で日本人選手がどれだけメダルを獲るかということ以上に、街がどうなっているのか、テクノロジーがどのように生活に溶け込んでいるのかということに興味があります。

それから、今後の日本市場を考えた時に、「超高齢化社会」というキーワードは無視できません。そこでインパクトを持つのが、“高齢者の医療費を下げるためのスポーツ”だと思います。先日、アミューズメント施設で70代くらいのご夫婦が「太鼓の達人」※をプレイしていて、スポーツの今後のあり方を見た気がしました。高齢化と健康志向の高まりに伴い、運動する高齢者はどんどん増えていくと思います。でも、「健康のために」と義務感でする運動よりも、「気付いたら運動になっている」という運動の方が続けたくなりますよね。アミューズメント施設にあるような、身体を動かして楽しめるゲームはまさに、こうした高齢者の潜在ニーズに合致します。
(※バンダイナムコゲームスの業務用音楽ゲーム。テレビゲームなどにも派生している。)

これはあくまでも例えですが、そういう場所を企業が提供することで、本業の集客につなげたら面白いのではないでしょうか。地域の高齢者コミュニティの拠点になるかもしれません。従来の“プロスポーツへの協賛”という企業とスポーツとのかかわり方から、今後は一歩踏み込んだ、多様なアイデアに期待しています。

為末 大氏(ためすえ・だい)

1978年広島県出身。男子元陸上競技選手。400mハードルの日本記録保持者であり、スプリント種目 日本人初のメダリスト。12年6月に25年間の現役生活を終え、現在はスポーツコメンテーター、タレント、指導者などで活動中。現役時代から陸上競技の普及に取り組み、10年にはアスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」を設立。11年に広島でランニングクラブ「CHASKI (チャスキ)」を立ち上げ、子どもたち向けの陸上教室を開催するなど、「スポーツを通じた社会貢献」に尽力している。

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