2020年の東京五輪開催が決定したことで、多大な経済効果が期待されている。当然、この機会を宣伝・販促活動に生かしたいと考えている企業の担当者も多いだろう。しかし、公式スポンサー以外の企業は、便乗商法、いわゆる「アンブッシュ・マーケティング」と見なされることがないよう、十分な注意が必要だ。ここでは知的財産権の専門家に、企業の知財権担当者が押さえておくべきポイントを聞いた。
注意すべきポイント
1. 登録商標と類似しているだけでも規制対象になりうる
2. 法的根拠の有無にかかわらず、企業イメージを守るための配慮が必要
3. 長期的なキャンペーンや商品への採用は避けた方が無難
企業の宣伝・販促活動において、国際オリンピック委員会(IOC)、日本オリンピック委員会(JOC)などの五輪関連団体の知的財産権を侵害してしまうと、クレームの対象になり、場合によっては法的措置をとられるリスクがある。もちろん、他社の知的財産権を侵害しないことは広告宣伝に限らず、あらゆる企業活動における常識であり、オリンピックに限った話ではない。しかしオリンピックに関しては、ルールがより厳格に運用される可能性が高い上、後述する通り“グレーゾーン”が多いため、より注意が必要だ。
オリンピック委員会が知的財産権を重視する背景には、オリンピックというイベント自体のブランドバリューを守る意味に加え、公式スポンサーからの収益を確実に確保するという目的がある。公式スポンサーとそれ以外の企業が同様にオリンピックを利用して広告活動を行えるのでは、スポンサーとして多額の協賛金を支払う意味が薄れるからだ。
言うまでもないが、今日のオリンピックは純粋な意味での“アマチュアスポーツの祭典”ではなくなっている。これは、特に1984年の米・ロサンゼルスオリンピックから顕著になってきた傾向だが、巨額の金銭が動く商業的イベントとなっている。このことについては賛否両論あるだろうが、商業化により税金の負担が減るなどのメリットもあるため、避けられない動きと言えよう。
では、具体的にはどのような行為が、知的財産権の侵害となるのだろうか?
登録商標に類似していても違反のリスク

まずは、商標権などの法律上明確に定められた権利について見ていこう。IOCとJOCはそれぞれ多数の商標を登録しており、JOCだけで62件の商標が登録されている。代表的な登録商標を表にまとめた。
商標権の侵害とは、この登録商標に同一・類似した商標を、同一・類似の指定商品の製造・販売・広告活動などで使用した場合に適用される。商標権侵害は、故意に行えば刑事罰の対象にもなる、厳しい権利である点に注意が必要だ。
例えば、「がんばれ日本」というロゴの付いたTシャツを製造・販売し、この商品の広告活動を行うことは、JOCの商標権を侵害する可能性が高い。「がんばれ日本」はJOCの登録商標「がんばれ!ニッポン!」と類似しており、この登録商標の指定商品には衣服が含まれるからだ。