2020年、AIを活用して手塚治虫の新たな作品を生み出せないか、模索するプロジェクトが実施された。そこから3年が経った2023年6月、「TEZUKA2023」プロジェクトが始動。『ブラック・ジャック』の新作の制作に取りかかると発表した。
生成AIの台頭で難題に挑戦
AIと人がコラボレーションすることにより、漫画を作成できるのか⸺こうした課題に挑んだのが3年前に実施されたプロジェクト「TEZUKA2020」だ。コンテンツが大量生産・大量消費される中、ストーリーを供給する制作側に負荷がかかっている状況を危惧し、AIを活用してクリエイターをどこまでサポートできるかの検証のため、プロジェクトを発足した。
当時はまだChatGPTもなく、画像生成AIも発達していなかったものの、プロット生成とキャラクター生成に挑戦。プロジェクトの中核を担う慶應義塾大学の栗原聡教授は、2020年の取り組みについて次のように説明する。「当時は手塚先生の漫画をテキスト化し、そのテキストを切り貼りすることでプロットを生成したり、少ないデータのみでの学習によりキャラクター画像を生成したりするなど、実施期間も短くいろいろと限界がありました」。
プロジェクトに向けAIの研究は重ねていたものの、使用に耐えうるほどのクオリティのものは生成できず、制作過程ではほとんど人の手が入ってしまったという。
こうした前回の状況を踏まえ、クリエイターの作業をサポートするツールとして、AIがどこまで作業を代行できるのかを改めて検証するため、今回の「TEZUKA2023」がスタートした。プロジェクトはサービス化・ビジネス化が目的ではなく、あくまで研究の一環となる。
「元々、前回の時点で3年後にAIで新しいコンテンツをつくる予定でした」と明かす栗原教授。プロジェクトの追い風になったのは文章を生成するChatGPTや画像を生成するStable Diffusionなどの生成AIの登場だ。これにより、以前に比べ格段に多様な文章や画像をAI で量産することが可 能になり、当初の目的だったクリエイターのサポートを、より多くの工程で実現できると考えた。
そこで、今回はより困難な挑戦を選択。「TEZUKA2023」では、手塚治虫の代表作『ブラック・ジャック』の新作の制作に挑む。手塚作品の中では全242話とボリュームがあるためデータとしても十分であり、2023年が連載から50周年ということもあり決定した。
この挑戦について、手塚治虫の長男であり、手塚プロダクション取締役を務める手塚眞さんは「今でも心の中では『無理だろうな』と思っています(笑)」と率直な感想を述べている。一方で、それでも挑戦する理由として、「新しい技術を使い、難題に挑むことで、技術をさらに進化させていくことができます。その進化によって、クリエイターはさらに創造的な活動ができる。たとえば漫画家は、自身の作品数や作品のジャンルを、短時間で増やしていけるのではないでしょうか」と語る。人間に取って代わるのではなく、サポートを受けることで・・・