IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

「仕事を奪う」は本当か 生成AIの隆盛とクリエイターの未来

広告会社が挑むクリエイティブ力を拡張するAIの使い方

広告会社ではどのようにAIの導入を進めているのか。電通、博報堂DYグループ、サイバーエージェントの各グループでAI活用を統括するキーパーソンの座談会を実施。クリエイターのAIの活用の仕方、現場での導入状況や法規制に対するルール化まで、AI活用の現在地を聞いた。

サイバーエージェントはAI による新しい広告表現やクリエイティブ制作支援、効果予測ができる「極予測シリーズ」を展開。

電通グループの「∞ AI」は効果予測のほかクリエイティブの発想、生成、改善の工程をAI によって包括的に支援するサービス。

博報堂DYホールディングスではAI ソリューション群「H-AI」シリーズを展開。6月現在、第7 弾までプロダクトを展開中。

ネット広告もテレビCMもAIを導入

⸺各社の広告クリエイティブにおけるAI活用の取り組みを教えてください。

毛利:インターネット広告に特化した代理事業を展開しているサイバーエージェントでは、効果の高いネット広告のクリエイティブを自動生成できるサービス「極(きわみ)予測シリーズ」を展開しています。配信前に静止画と動画の効果を予測できる「極予測AI」や、効果の出せる広告テキストを予測・自動生成できる「極予測TD」、そのLP版の「極予測LP」も。たとえば「極予測AI」では、画像の選定や配置などの違いにより効果を制作過程からAIで測定し、さらに現在クライアントが配信している中で最も効果のあるクリエイティブと効果を競わせることができます。さまざまなパターンを配信前から検証できるので、ネット広告を担当しているクライアントの8割以上に、この極シリーズを使用してクリエイティブを提供しています。

児玉:電通グループでは「∞(むげん)AI」というサービスを提供しています。訴求軸をデータから見つけ、レイアウトやコピーを含むクリエイティブの生成、そこから改善点をサジェストでき、ワンストップのクリエイター支援ツールに近いものです。他にもチャットボットをつくれるツールなどマーケティングのプロセスの中で求められるものを社内で実験的に試してみて、特に使えるものをサービスとして提供していっている感じです。2017年にローンチしたAIコピーライター「AICO」の技術はさまざまなものに代替されてしまいましたが、その頃からのデータやノウハウも活きていて、それなりに長い開発の歴史を背負ったサービスです。

柴山:博報堂DYホールディングスは直下にグループ横断の研究開発組織「Creativetechnology lab beat」を組成してグループをあげて広告クリエイティブのAI活用を推進しており、AIのソリューション群として「H-AI」シリーズを提供しています。広告文の自動生成や広告クリエイティブの効果予測AI機能だけでなく、クリエイティブ自体の制作支援や工程管理機能もアプリケーション内につくり込んでおり、数多くのクリエイティブを制作し管理まで一元的に行なえるプロダクトです。

また、テレビCMを中心としたブランデッドのクリエイティブでもAIを活用するツールを提供しています。たとえばテレビCMの制作において、アイトラッキングを用いて「仮編集などの段階で文字の色や位置を変えたら注視量が2割増えた」などと測定をしながら制作できる「H-AI EYE TRACKER」など。当社で開発したマーケティング専用AIと、GPT-4などの汎用AI を使い分けながら開発、推進しています。

毛利:お2人はそうしてつくったAIツールを、クリエイターの方々にはどんな風にして使ってもらうように促していますか? 僕らは社内にある2つのクリエイティブ組織(ダイレクト/ブランド)のうち、ダイレクトのチームを「AIクリエイティブ」と呼んで、メンバー全員が業務で使う形にしています。導入期は反発もありましたが、戦略の一環として使ってもらうようにしました。

児玉:電通グループはマス広告などクリエイティブの幅が結構あるので、僕としては手作業が適しているタイプの案件は手作業でやればいいと思っています。ただ、良いAIのプロダクトができるとクライアントも社内も自然と使う人が増えるんですよね。これだけジェネレーティブAIに対する理解が深まってきているので、最近は使った方がいいという風が吹いている感じはあります。

柴山:博報堂DYグループのデジタルエージェンシーの会社であるアイレップでは、サイバーエージェントさんと同じように100%利用しています。「H-AI」に工程管理ツールも含まれているので、これを使わないと仕事ができない、という状態です。デジタル広告はかなりの数のクリエイティブが必要になるので、クリエイターごとの質のばらつきをAIが担保するという意味で、重要な位置付けとしています。

毛利:ブランデッドの方はどうですか?

柴山:CMなどのブランデッドクリエイティブの制作では、クリエイターからまだまだ自分たちの腕の方が上だという声も聞こえます。それもよくわかるので、ブランデッドとパフォーマンスとは導入の仕方を分けながら進めていますね。また、広告主からも「AIに対してどのような取り組みを行っているのか」といったAIを活用した工数削減や効果向上に対するご意見をいただくようにもなってきました。私たちのようなAIを推進する立場としては追い風かなと。

児玉:あっと言う間に価値観が逆になるような気がしますよね。手づくりだからこそ価値があるものももちろんあって、それが市場からなくなることはないと思いつつ、工程の無駄をなくしていく時代はすぐそこに来ている気がします。

クリエイターとAIの視野は違うもの

⸺社内のクリエイターの方々は、実際にどのようにAIを活用していますか。

児玉:人によってさまざまですが、AIにコピーを書かせるというより、何となく関係しそうだけど遠い言葉や同義語、類義語を生成するbotを自分でつくって、それを使ってコピーの幅を広げたりしていますね。他にはユーザー像を可視化したり課題を深掘りしたりするときの壁打ち相手としてChatGPTを使っていたり。画像系だと、社内でのプロトタイピングの段階では画像生成AIを使うのは当たり前になりつつあります。

柴山:クリエイターの仕事内容に応じてチョイスできるような形にしています。ブランデッドでは以前は「こうしたら良くなる」が職人の勘に委ねられていましたが、今は自分自身とAIを戦わせてみて「この考え方で合っているんだっけ?」と壁打ち相手として検証的に使うことが多いですね。AIのアシストが絶対というわけではありませんが、人に言われるよりも最近は信じてくれることが多くて。

毛利:サイバーエージェントはほとんどのクリエイティブを内製して相当数のバナーをつくっているので、特に地方拠点では工程管理が徹底されています。東京ではジェネレーティブAIを使うことで新しいデザイン、意外性のあるものが生まれやすくなっている印象です。

社内の変化でいうと、以前は商品カットが必要なときは...

あと61%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

「仕事を奪う」は本当か 生成AIの隆盛とクリエイターの未来 の記事一覧

手塚治虫のあの名作で検証AIと共に挑む“新作”づくり
グローバル事例に見る未来の可能性「AIはアイデアを実現する最高の手段になる」
AI vs AIの議論を描く実験的映画人間とAIの境は?
AIによるデザインを人は見抜けるか?
クリエイターのAI活用実態調査 262人の答え
広告会社が挑むクリエイティブ力を拡張するAIの使い方(この記事です)
「世界は言葉でできている」アンドロイドとの共創で見えたもの
櫻坂46のメンバーと渋谷をスキャン:「NeRF」を用いたアートワーク―櫻坂46『Start over! 』
「不気味の谷」をいかに越えるか4枚のイラストをAIで補完した動画:KDDI/αU「もう、ひとつの世界。」
画像生成AIとブレストしてできたテレビCM:大日本除虫菊/キンチョール「ヤング向け映像」
学生200人の顔写真を活用「いそうでいない」をAIで実現した広告
ブレーンTopへ戻る