大日本除虫菊は2023年4月、殺虫剤「キンチョール」の世界観を表現したカオティックな演出のテレビCM「ヤング向け映像」篇を公開した。 キンチョールの塔がある近未来的な街、円柱形の奇抜なファッション、突如現れるのは「キンチョルマン」……? 見たことのない映像をつくるべく、制作過程で画像生成AIを活用したという。

01 テレビCM「ヤング向け映像」篇。
AIの使用にあたり決めた2つのルール
テレビCM「ヤング向け映像」篇(01)は、「キンチョール」の2023年夏のコミュニケーションとして、22年11月末頃から企画が始められた。「『キンチョール』ではいつもは言葉を軸に企画を考えていますが、今回はガラッと違うノリのCM をつくろうと。 『日本の殺虫剤といえばキンチョール』を大きなテーマに、シティでポップなカルチャーっぽい(笑)“見たことのない映像をつくります”とプレゼンをしました」と、電通 Creative KANSAIの古川雅之さん。
しかしシティポップな路線から始まり、「世界殺虫フェスティバル」「キンチョール館(万博風)」など切り口を考えるも、ビジュアルとしての強さを実現できるような答えが見つからず、企画は暗礁に乗り上げてしまう。そんな時、プランナーの小堀友樹さん(電通 Creative KANSAI)の「画像生成AIを使うのはどうだろうか?」という言葉が手がかりに。「ちょうど話題によく出るようになった時期で、画像生成AI を触ってみようとなったんです。ただ著作権などルールが明文化されておらず、『リスクを減らすためにも人物名や特定の固有名詞は使わないこと』、そして『ブレスト相手として使い、最後はCG でつくり直すこと』を決めた上で、色々と試してみることにしました」(同アートディレクター 茗荷恭平さん)。
AIへの指示能力は「検索能力」
とはいえ、テーマが無いと入力しようがない。そこでチームであらかじめCMの4つの構成要素「キンチョールシティ」「青い空間」「赤い空間」「キンチョルマン(キャラクター)」を定めた。それぞれのイメージを茗荷さんが手描きし、そのアイデアを広げるためにプロンプトを入力していった。「2つの画像生成AIを使いました。ひとつめは、結構味わい深い良い絵(02)が出てきまして。もう少し解像度を高めようと別のAIも使い、それぞれを参考にしながら案を広げていきました」(茗荷さん)。

02 殺虫剤のノズル頭の人間型ロボット」をイメージして企画初期に生成されたもの。画風についてはairbrush painting、strongly idiosyncratic、90s illustration、retroなどと入力。
当時、古川さんが入力して出てきたのが(03)の画像だ。「僕が入力すると、へんてこなものばっかり出てくるんですよ(笑)。golden chickenとか、futureとかrobotとか、こっち(03・右)はgolden flying insectsとか入れて、方向性は間違っていなかったと思うんですけど、どうも作画崩壊しがちで(笑)。茗荷くんたちがうまく生成していたのは、言葉の指示能力、つまり検索能力の違いなのかなと思います」(古川さん)。

03「金鳥」をイメージして古川さんが生成した画像の数々。
茗荷さんは試行錯誤を重ねる中で、なんとなく「型」が見えてきたという。「たとえば『鳥頭の男の銅像』をつくりたいとすると、chicken head man、chicken statueという感じで最初にモチーフを規定し、90s matte...