NTTドコモは2021年9月から、デジタルネイティブ向けプロジェクト「Quadratic Playground」を始動した。代表取締役副社長の廣井孝史氏と、企画制作を手がけたSTARBASE 代表の日髙良太郎氏がその裏側を振り返る。
自由な発想の“遊び場”が必要だった
「Quadratic Playground」はNTTドコモによる新たなエンターテインメントを若年層に届けるプロジェクトだ。MUSIC・SPORTS・WebCMという3つのジャンルで構成され、タグラインは「正解よりも、楽しいを答えに。」。
それぞれYOASOBIの楽曲『大正浪漫』の公式ミュージックビデオとその360度映像、VRでサッカー元日本代表 内田篤人氏のプレーを体感できる「FEEL THE SENSE of 内田篤人」、横田真悠・seidai・窪塚愛流ら次世代を担う俳優たちが出演するWebCMといったコンテンツが公開されている。さらに12月には渋谷駅前でVR体験イベントを実施したほか、制作の裏側を伝えるドキュメンタリームービーもWeb上で公開した。
このムービーで驚くべきは、出演者が「ドコモははっきりとしたブランドイメージがない」と率直な印象を述べていること。本プロジェクトを推進したNTTドコモ 代表取締役副社長の廣井孝史氏も「大企業のヒエラルキー組織の中の発想は、今の世の中の感性と必ずしも合っているわけではない」とムービーの中で語っている。
廣井氏は2020年、持株会社からNTTドコモの経営に参画。客観的に課題を捉える中で、今回のように自由で新しいプロジェクトを実現したいと考えていた。「プロモーションも含めてもっと挑戦できる環境やチームが必要。ドコモの技術力を活かしたエンターテインメントコンテンツにこそ、その突破口があるのではないかと感じました。自由な発想の“Playground(遊び場)”というプロジェクト名は、そういった思いを象徴するものです」。
プロジェクトの実施にあたっては、NTTドコモのアライアンス推進室を中心に、このほか5Gや6G、XR、ドローンなど、最新鋭の技術を研究してきた社員も協力している。ドコモにはドコモ全体の広告宣伝を担うプロモーション部もあるが、若年層に向けた既存の枠組みにとらわれない自由なアイデアを実現するため、従来にはなかった座組みでプロジェクトを進めていった。
さらに外部のクリエイターとして企画制作に参加したのが、STARBASEだ。音楽やファッションといったカルチャーを軸にした若年層向けのエンターテインメント企画には定評がある。代表の日髙良太郎氏は「廣井さんの課題意識に僕らも共鳴しました。それにドコモの技術のスペシャリストの皆さんやアライアンス推進室の方々と会話をしていると発見が多く、非常に興味深いんです。世の中にその面白さや基礎研究の価値が伝わっていないことがもったいない、エンターテインメントの力でこの面白さを届けられないかと考えました」と話す。
そんな思いもあり、日髙氏から提案したのが「正解よりも、楽しいを答えに。」というタグラインだ。これはドコモから社外のステークホルダーに向けたメッセージであると同時に、廣井氏がドコモの社員たちに伝えたかったことでもある。「大企業にいると組織にとっての正解を探しがちで、いつの間にか“楽しさ”が削ぎ落されてしまう。一人ひとりの社員は楽しいことを実現したいという思いやユニークな発想を持っているのに、ユーザーにとっての楽しさを忘れかけてはいないか。従来の組織形態にとらわれず“楽しい”を追求しよう、という呼びかけでもあります」(廣井氏)。
ドコモの社員のこだわりが質を高めた
日髙氏もアライアンス推進室のメンバーとの制作を進める中で、多くの手応えを感じたという。「僕ら外部のクリエイターのアイデアだけでも企画は成立するかもしれない。でもそのクオリティをさらに引き上げることができたのは、当事者であるドコモの皆さんのこだわりがあってこそ。現にドコモ側からの提案によって、ブラッシュアップされた部分が多くあります」(日髙氏)。
たとえばYOASOBIのVRコンテンツには過去の楽曲13タイトルを隠しオブジェクトとして散りばめているが、これはドコモチームから「VRを繰り返し楽しめるよう、発見のある仕掛けがあったほうがいいのでは」といった声があって生まれた。実際にこのMVはファンの間で話題となり、約150万回再生(2021年12月13日現在)を記録している。
今回のプロジェクトの効果検証はこれからだが「社内外から好意的な反応を得ることができた」と廣井氏は総括する。STARBASEでも、今後の新たな取り組みの可能性を探っているところだ。
「これから会社として仕事の進め方はもちろん、チームのつくり方や組織の在り方も変わっていくべきだと考えています。その中で今回のように自由に楽しさを追求したプロジェクトを実現し、世に送り出すことができたのは大きい。社内の意識を高揚させて、前向きな機運が生まれればと思います」(廣井氏)。
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