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青山デザイン会議

観光を創造する

イェンス・イェンセン/江口カン/鈴木輝隆

日本はどの街に行っても同じ風景が広がり、その土地に根差した文化や自然の記憶が薄れつつあると危惧されていました。しかし最近、地元の美しい自然や景観、歴史や文化の記憶を取り戻そうとする動きが増えてきました。世界的大都市モデル「東京」を真似るのではなく、東京にないものを新しい価値として提案・訴求する動き。また、一つの道府県にとどまらず、近隣の他県と共同戦線を展開することで「地方」としての魅力をアピールしています。

コミュニケーションでいえば、「泣ける!広島県\(T ∇ T)/」「vs東京」キャンペーンや、札幌国際芸術祭など国際的な祭典を催すなど地域の特色や魅力を、国内はもちろん海外に向けて発信しています。昨年、訪日外国人旅行者数は1000 万人を達成しました。増加傾向にあるものの、フランスやアメリカなどの観光先進国に比べ、その規模は依然として小さく、東京⇔京都間の一極集中の観光ルート以外の地方ルートの魅力をアピールしたいところです。そこで今回の青山デザイン会議では「観光を創造する」とテーマを設け、観光立国ニッポンを目指すべく、デザインやコミュニケーションができることを、著述家のイェンス・イェンセンさん、映像ディレクターの江口カンさん、江戸川大学の鈴木輝隆教授と話し合います。

地方の魅力を知るには時間の積み重ねが必要

江口 映像ディレクターをしています。この間「泣ける!広島県\(T ∇ T)/」という観光PR の仕事をしました。広島県の魅力を記載した本を無料で配布したりしたのですが、この施策を通じて感じたのは、観光の課題は一元的ではない、ということです。政治や行政、その土地に住む人々の暮らしも密接に関わってきます。観光PRだけを考えても、結果的に根付かないんです。一時的にたまたま人を呼べたとしても、その土地の宿泊施設の接客が不親切だったりすると意味がありません。さまざまな課題が複雑に絡んでいると思いました。

イェンス 来日して12 年になります。日本を好きになったきっかけはジェームズ・クラベルの小説を映画化した『将軍SHOGUN』というテレビドラマでした。とくに日本の職人の技術に興味があり、もっと世界に日本を知ってもらいたいと、いまはデンマーク大使館を辞めてフリーで執筆活動などをしています。日本の観光の課題について思うことはいくつかあります。一つは景観の管理が整備されていないことです。日本の四季や自然、文化の魅力は地方にこそ豊富に存在します。でも、自動販売機や電柱がいたるところにあり、ルールを定めていく必要があると思います。二つ目は、観光産業が国内需要中心に向いていることです。たとえばお土産一つとっても僕ら外国人がほしいものは一つもありません。現地で生産された本物の商品を求めているのに、大量生産品が多く売られています。

鈴木 江戸川大学で教鞭を執る傍ら、地域産業とデザイナーを結びつけて、地域を活性化する取り組みをしています。イェンスさんのご指摘は的を射ています。ようやく、そこに気づいた人も増えはじめ、生産者も消費者も本物を求める動きが少しずつですが増えてきたように思います。

江口 日本の観光産業が発展しない原因の一つに ...

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