リサイクル、アップサイクルにSDGs……。世の中の環境意識の高まりとともに、今やあらゆる事業やデザインに「サステナブルであること」が求められる時代になりました。今回集まってくれたのは、割れた器を再生する金継ぎの依頼を日本全国から受注するほか、教室やワークショップ、企業や雑誌とのコラボレーションを通して、本漆を取り入れた暮らしを提案している大脇京子さん。食品廃棄物などから新たな素材やプロダクトを開発し、明治「ひらけ、カカオ。」をはじめ企業と連携したプロジェクトも数多く手がける、fabulaの町田紘太さん。スポーツとゴミ拾いを掛け合わせた「スポGOMI」を2008年にスタート、2023年には念願の世界大会も開催した、一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ代表の馬見塚健一さん。本来なら捨てられるはずだったものに命を吹き込み、新たな価値をデザインする。そんな3人がイメージする、サステナブルのこれからとは?
「サステナブル」では人は動かない
馬見塚:一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブで代表をしています。スポーツとゴミ拾いを掛け合わせた「スポGOMI」という活動を2008年にスタートして、今年で16年目。昨年初めて、日本を含めて世界21カ国が参加する「スポGOMIワールドカップ」を開催しました。
大脇:金継ぎは、欠けたり割れたりした陶磁器を、本漆を使って接着して修復する日本の伝統的な技法です。私が金継ぎを始めたのは2009年。現在は教室やワークショップのほかに修復も行っていて、最近は海外からのご依頼も増えています。
町田:廃棄物から新しい素材をつくる「fabula(ファーブラ)」という会社で代表を務めています。たとえば、みかんの皮を乾燥して粉にして、それをプレスして素材をつくるといった、食品廃棄物をテーマにした研究を大学時代からしていて、卒業後にベンチャーとして起業しました。
馬見塚:スポGOMIを思いついたのは、仕事に追われていた30代の頃、自分の時間をつくろうと思って、ランニングを始めたんです。最初は、自分の走るルートだけでもきれいになれば気持ちがいいと思ってゴミを拾い始めたのですが、やっているうちに、汚いはずのゴミが見つけたら嬉しい"ターゲット"に変わるのを感じて。これをスポーツ化したら面白いんじゃないかなと考えて、ルールをつくったんです。
町田:僕らの事業は、まさに「サステナブル」という文脈で語られることが多いのですが、重要なのは、いいものをつくって、それをいろんな人に買ってもらうためのストーリーをつくること。世間がイメージする「サステナビリティ」と、日々戦っています。
馬見塚:スポGOMIを始めた2008年当時は、環境への意識も今ほど高くないし、「遊び半分の社会貢献活動」なんて批判をされることもありました。それが、2015年に国連でSDGsが採択されたことで、ガラリと空気感が変わって。
大脇:金継ぎも同じで、私が始めた頃は、一部の器好きな人たちに知られているくらい。それがここ数年、多くの方が興味を持ってくださるようになって、コロナ禍でさらに注目が高まりました。皆さんがよく言うのは「これ以上、モノを増やしたくない」ということ。愛用してきたものを、自分の手で直せるなら直して使いたいと考える人が増えているのを実感します。
町田:僕もよく器を割ってしまうので、金継ぎをお願いして直してもらうことがあるんです。戻ってくると、これはこれで味があっていいなと感じるし、ずっと使っているものだから愛着もある。金継ぎって、そういう付加価値はもちろん、実用的な価値もあるのがいいですよね。
馬見塚:うちのスタッフも金継ぎを習っているのですが、唯一無二になるから、新しいものよりも大事にしたくなる。
町田:サステナブルだからやっているというよりは、そこに価値があるからやっているんですよね。金継ぎもそうだし、きっとスポGOMIもそうだと思うのですが、お2人の話を聞いていて、大事なのって多分そういうところなんだろうなと思って。
大脇:スポーツにしても、ものづくりにしても、自分が心地よくなれるかどうか、美しいと思えるかどうかが大事。そういうある種の快感が得られないと、継続したり、愛着をもって使い続けたりするのは、なかなか難しいですよね。
馬見塚:スポGOMIも、SDGsどうこうではなく、自分たちがやりたいことをやっていたら、結果として世の中がついてきた、というだけですし。活動が軌道に乗ってきたときに、環境学系の先生方にアンバサダーをお願いすることもできたのですが、そうするとスポーツではなく環境活動になってしまうと思って、踏みとどまりました。
町田:ちなみに、コロナ禍で金継ぎが人気になった理由って?
大脇:ステイホームや、SNSの影響もあると思います。年齢は30~40代がメインで、20代から70代、80代まで幅広く。短時間でできる接着剤を使ったワークショップには、小学生のお子さんも参加しています。8割以上が女性ですが、ここ1~2年は男性や、より伝統的な「本漆を使った金継ぎをやりたい」という方が増えていますね。
町田:誰でもできるものなんですか?
大脇:そうですね、漆によるかぶれさえ大丈夫であれば。テレビなどの映像で見ると簡単に思われがちですが、実際はひとつの工程ごとに、漆が固まるまですごく時間がかかるんです。少し欠けたお皿を直すのにも1カ月近くかかってしまうことがあるので、「やってみたら意外と大変だった」と感じるかもしれません。
町田:でも、やってみたいなあ。
大脇:金継ぎには、欠けた部分に別の素材を合わせる「呼継ぎ」という工法があるんです。たとえば、fabulaさんがつくっている器やお皿をパーツに使ったら面白いなと思って。
町田:売り物にならないB品を使うこともできそうですね。コーヒーの抽出カスでつくった素材なんて金色とすごく相性がよさそうだし、一点ものに仕上がるのも楽しい。
大脇:それこそ海洋ゴミには、陶片なんかが多いですよね。
馬見塚:そうですね。スポGOMIでビーチを掃除すると、流れ着いた「シー陶器」や「シーグラス」がたくさん出てくるので、拾った中からきれいなものを選別してペンダントにして、優勝メダルとして渡しています。
大脇:角が取れて曇りガラスのようになっていたり、中国っぽい柄があったり。すごくかわいいので、私も集めています。ゴミ拾いから地球環境を考える
ゴミ拾いから地球環境を考える
馬見塚:普通のスポーツは男女で分けたり、年齢で分けたりすることが多いですが、スポGOMIの場合は、小さいお子さんから高齢者まで、誰でも競い合えるルールにしたかったんです。
大脇:スポーツということは、やっぱり勝ち負けがあるんですか?
馬見塚:はい。開催する場所によってゴミの分別方法が違うので、それをルールに盛り込んでいます。たとえば、燃えるゴミが100g=10ポイント、タバコの吸殻が100g=100ポイントというように。子どもは目線が低いので、タバコを拾う担当になることが多くて、そのポイントが高いから上位入賞できる。そうやって、ドラマが生まれるような工夫をしています。
町田:想定していなかったゴミが出てくることはないんですか?
馬見塚:国内ならだいたい想定の範囲内ですが、ミャンマーで大会を開催したときには、分別が「ドライ・ウェット・メタル」という感じで、ちょっと湿ったダンボールはどっち?みたいなことはありました。それからパナマでは、スーパーで飲み物を買うと必ずストローを付けて渡す習慣があって、街なかにストローのゴミが異常に多いんです。そこで、タバコではなくストローのポイントを高くして。
町田:逆に日本独特のものって?
馬見塚:日本の中でも、原宿や渋谷のような都会だと、ビニール傘が大量に出てきますね。ゲリラ豪雨とか突風とか、おそらく昨今の気候変動が原因だと思いますが。
町田:確かに、自販機の裏に捨てられているのをよく見る気がします。
馬見塚:実は、スポGOMIを始めたばかりの頃、大手広告会社のクリエイターから「名前がかっこ悪いから、横文字にした方がグローバルに展開できるよ」と言われたんです。一瞬迷ったのですが、ただでさえわけのわからない活動が横文字になったら、余計に混乱すると思って。実際「スポーツ」と付いているのが功を奏して、「これはルールがあるはずだから聞かないと」ということで、問い合わせが来るんです。
大脇:そのおかげで、ワールドカップまで開催できた、と。
馬見塚:最初は、小学校からの依頼のような小さな大会を積み重ねていたのですが、コンテンツに磨きをかければ、ビジネスになるという思いがあって。ずっと一緒に活動してきたユニクロさんから「やってみない?」というお話をいただいたんです。本当に大変でしたが、夢のような経験でしたね。
町田:うちの町のゴミはこれが多いとか、こういう分別方法があるんだとか、自然と詳しくなれるのがいいで...