IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

青山デザイン会議

企業×メディア×クリエイティブの新しい組み方

河辺轍也、竹原大祐、中島敏子

「メディアの変化」というフレーズが常套句のように使われる。しかし、メディアにとって重要なテーマはいつも同じだ。それは、ある属性や価値観を持つ人たちに、“メディア”という場所に集まってもらい、彼らに喜ばれるような情報を提供していくこと、そしてその行為を通じてビジネスを創出していくことだ。表現するプラットフォームやデバイスが変わっても、その本質は変わらない。むしろ本質を変えないために、常に最適解を探る姿勢でいれば、姿かたちは変わり続けていくはずだ。

人々の情報との関わり方が刻一刻と移り変わる中で、いまメディア人たちは、その最適解を探るためにどんなトライ&エラーをしているのか。そこに、企業や外部のクリエイターはどう関わっていけるのか。一般企業がメディアを立ち上げるようになるなど、これまでにないダイナミズムの下で、企業やクリエイターと魅力的なコンテンツを作るチャンスは広がっている。

今回の青山デザイン会議では、姿を変えるプロセスの真っただ中で、先進的な取り組みを行う朝日新聞社「メディアラボ」プロデューサーの竹原大祐さん、『GINZA』編集長の中島敏子さん、レクサスインターナショナルの河辺徹也さんに、企業×メディア×クリエイティブのこれからの関係についてお話しいただく。

これまでにない新しいことをするのがミッション

竹原▶ 「メディアラボ」は朝日新聞社の社内ベンチャーです。昨年6月に発足し、現在社内公募などで集まったメンバーと担当役員の計20人がいます。メンバーが共通して抱えているのは、新聞社のビジネスに対する強烈な危機感です。木村伊量社長の「失敗してもいい。朝日新聞のDNAを断ち切って、実験工房となれ」という掛け声を受けて、将来の新聞社の収益を支える新規事業の立ち上げや、ベンチャー企業との提携、新しい技術や端末の研究・開発を主なミッションに、皆で侃々諤々議論を重ね、新しい取り組みにチャレンジしています。

河辺▶ レクサスブランドの担当をしています。レクサスは25年前にアメリカで誕生したブランドです。日本には2005年に上陸して、今年で9年目になります。ユーザーの年齢層も上がっているいま、課題はブランドの若返り。これまでの「霞ヶ関や永田町を走っている黒い高級車で、大企業の役員クラスが運転手つきで自分は後部座席に座っている」といったブランドイメージを覆すために2012年に立ち上げられた小さな部署が、私の所属するレクサスインターナショナルです。ある日突然呼ばれ、レクサスの部署への異動を告げられました。上司からは「レクサスのブランドをカッコよくしなければいけない」と。とにかく新しいことにチャレンジしています。4年ぶりのミラノサローネへの出展、ハリウッドでのショートフィルム制作、グローバル統一ブランディングの広告、どれも車を全面に出さず、それに触れた人が、「え?車のブランドだったんだ」と思うような作りにしました。車というジャンルの中で戦うことをやめ、いまはレクサスがファッションブランドのようにライフスタイルを提案していくことを目指しています。

中島▶ 私は編集者としてはちょっと変わり種で、『relax』と『GINZA』を担当する間に1年ほど、カスタム出版部にいました。企業から直接予算を預かりコンテンツを作る、いわば"一人編プロ"のような部署でした。例えば、BEAMSの雑誌『B』を1年間作ることになったときは、BEAMSのプレスルームに編集部をつくってもらいました。無理矢理なんですけどね(笑)。そこに毎日通って、すぐに商品に手が届くところで、自社商品のような感覚でそれらを紹介するメディアを作りました。その仕事が終わると、次の大型プロジェクトのために代官山に事務所を借りて、毎日その事務所に通っていました。いま思うと、よく会社が許したなと思います。そういう生活の中で企業の発信するコンテンツに興味が湧いて、その道に進もうかなと思っていた矢先、『GINZA』に移るよう言われたんです。タイアップが多い『GINZA』の誌面づくりには、カスタム出版部での経験がとても役に立っています。編集者は編集ページと広告ページを分けて考える癖がついていますが、今の読者はそんな区別に関心はありません。「買いたい」という気持ちにさせてくれる、いいものが載っていればそれでいい。ですから、クライアントのページも編集ページと同じように全力投球で作っています。

河辺▶ いいものが載っていることが大事という読者のために、タイアップページに力を注ぐ姿勢はいいですね。タイアップに関しては、僕らクライアントも悪いんでしょうね。お金を出しているんだから思い通りにできると考えてしまう。その結果、歯の浮くような言葉が並んだページができて、誰も読まずに飛ばしてしまう...。宣伝とブランドは別ですからね。中島さんは、自分自身がBEAMSを好きにならなければいいものができないと思うから、BEAMSの中に編集部を作ったんでしょう?「ペンの力でひっぱり上げるとソロバンがついてくる(いいコンテンツをつくれば、その結果売上げも立つ)」が僕の持論です。『GINZA』は、中島編集長になってから急に部数が伸びたと聞きました。紙媒体もWebもこれだけ氾濫している中、それでも買おうという気持ちをつくれるのは、なぜなんですか?

中島▶ 書店の女性誌コーナーって、まるでお花畑みたいですよね。たくさんお花が咲いていて、そのどれもが「私を買って!」と叫んでいる。タレントの顔がアップになった表紙に文字がたくさん並び、ちょっとでも目立とうとしています。そこはもう勝機が無いので、やめようと思ったんです。『GINZA』は小声の雑誌だと思っています。読者の心に直接語りかけるようなリアルな声を意識しています。どれにしようかと迷うことなく『GINZA』を目指して一途に買いに来てくれる、そんな読者を育てたかったんです。とはいえ、当初は自分が面白いと思う企画を好き勝手にやっていたので、テーマによって売行きの落差もありました。苦い水をなめて勉強した結果(笑)、テーマはマジョリティで、見せ方はマイノリティ(個性的)に、というのが、いまのスタイルのひとつでしょうか。

竹原▶ レクサスの発行している雑誌『BEYOND』は、どんな方針で作られているんですか?

河辺▶ 『BEYOND』は車を直接語りません。デザイン、環境や自然、食の楽しみ、走りを楽しむ道の話、そういったものが中心で、そろそろ出てこないかなという頃合いで、開発秘話などが入ります。写真ですべて語れるビジュアル誌を目指していますが、カメラマンは、車の専門ではない、ファッション誌やライフスタイル誌のカメラマンを起用しました。いままでとは違うことに挑み、新しいラグジュアリーを求める人々の価値観にあったライフスタイルを提案し、表現することで、ブランドを変えていきたいという自分たちの意志を表現したいと考えています。

    TETSUYA KAWABE'S WORKS

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    旅、建築、アートなど幅広い情報を網羅するライフスタイル提案型マガジン『BEYOND』。レクサスオーナーに送付するほか、書店でも販売。

    昨年8月、東京・青山にレクサスブランドの情報発信拠点としてオープンした「INTERSECT BY LEXUS」。デザインはインテリアデザイナーの片山正通さんが手がけた。

    次世代を担うクリエイターのためのコンペティション「LEXUS DESIGN AWARD」。写真は第1回(2012年)の入賞作品「INAHO」。

    「INTERSECT BY LEXUS」内では、日本各地の若い職人たちとコラボレーションしたオリジナルブランド「CRAFTED FOR LEXUS」のラインナップを販売している。

    ハリウッドの映画制作会社「The Weinstein Company」とコラボレーションしたショートフィルム制作プロジェクト「LEXUS SHORT FILMS」撮影風景。

    昨年4年ぶりにミラノサローネに出展。建築家の平田晃久さんによるインスタレーション「amazing flow」が展示された。

新聞社と雑誌社はデジタルにどう取り組む?

竹原▶ 新聞は文字をメインに事実を伝えるメディアですが、雑誌のように写真で訴えることも重要だと考えます。もちろん動画も重要です。メディアラボでは、新聞とは違った角度で、例えば雑誌特有の豊かなカルチャーのとらえ方を軸に、読者の共鳴や共感を得て共に作りあげる「新聞のマガジン化」を目指したいと考えています。動画は直接感情に訴えやすい「エモーショナル」な表現手法なので、ぜひ取り組みたいと思っていますが、まだまだ苦戦しています。『BEYOND』は、雑誌とWebを両方使って展開していますが、Webはどういう位置づけなのでしょうか。

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