広告マーケティングの専門メディア

           

「ネット広告」の課題と企業倫理

「使ってもらえる広告」から13年 広告業は「プランナー・イノベーション」の時代へ

須田和博氏(博報堂)

インターネット広告市場の拡大は、ややもすると短期的な投資効果だけを偏重する風潮を生みだしかねません。しかし、「広く告げる」広告には、企業にとってのマーケティング手段としてだけでなく、そのクリエイティビティが広く社会に貢献する側面もあります。現代の社会において「広告」そして「クリエイティビティ」が果たせる役割とは何か。博報堂の須田和博氏が考えます。

インターネット広告に求められるユーティリティとしての価値

私はこれまで、広告の企画やデザイン、その制作の思考法やスキルが、広告を超えた領域で社会の役に立つような、新しい「広告の使い方」を、長年考え続けてきました。

そうした考えを持つようになったのは、今から約13年前、『使ってもらえる広告』という著書を刊行した頃から始まっています。私は博報堂内で2005年にテレビをはじめとするマス広告からインターネット広告に自分のフィールドを移しました。

その時に強く感じたのは、広告が「見てもらうもの」から「使ってもらうもの」に変わっていくだろうという予感でした。日常的に生活者が接触するスクリーンが「見るもの」から「使うもの」に変わりつつあることに気づいたからです。

言うまでもなくスマートフォンのスクリーンは、おとなしく「見るため」にあるのではなく、目まぐるしく触りいじり、時に何かを探したり、発信したりなど「使うため」にあります。ひと頃、よく言われた「バズる」という言葉も、その動画を「見るため」ではなく、その動画を「誰かと話題にする」という「使うため」の方にこそ、その本質があります。

この「使ってもらえてこそ生活者の近くに行ける」という気づきが、その後の自分の企画の思考法を大きく変えました。広告も「ユーティリティとしての価値」がないと、生活者に接触してもらえなくなる時代が来るだろう。その視点に立って仕事をし始めた時、その先にあったのが「技術の使い方を考える」という企画法でした。

「見てもらう広告」から「使ってもらう広告」への意識の変化は、企画のソースの探し方の変化を生みました。すなわち視覚的に興味喚起する元ネタやヒントを探す行為から「この技術、何かに使えないかな?」という「技術の元ネタ」を探す行為への変化です。技術の「新しい使い方」を考える。そして、新しい有用性のある広告をつくる。2014年から「スダラボ」という名前でメンバーと取り組んで制作した様々なコミュニケーションのプロトタイプ群は、その結果、生み出されたものでした。

画像認識の技術を使って風景を売場にする「ライスコード」、接触検知の技術を使って野菜が自己紹介する「トーカブル・ベジタブル」、顔認識の技術で見る人に最適な広告を鏡に映す「フェイス・ターゲティングAD」など、技術の新しい使い方を発想しテスト実装することで、コミュニケーションの可能性を拡げようとしました。

「スダラボ」では...

あと60%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

「ネット広告」の課題と企業倫理 の記事一覧

「使ってもらえる広告」から13年 広告業は「プランナー・イノベーション」の時代へ(この記事です)
世界を少しでもハッピーな場所にするためにインターネットを「自然」の一部と考えてみる
広告活動に求められる、企業倫理
日本特有の問題表現や薬機法違反 ポリシーに反する広告への対策がますます重要に
高まる企業とクリエイターとの協業の重要性 ステマ対策を徹底し、利用者に対する透明性を担保すべし
広告主審査、広告原稿審査を徹底し「なりすまし広告」撲滅の取り組みが必要
アフィリエイター制作の広告に課題も 業界団体などと連携した取り組みが必要とされる
マーケティング活動を脅かす、世界の最新・不正行為
広告主がいま、すべき対応とは?
「消費者の権利」から、適切な広告の形を考える
広告業界が取り組むべき、不当表示と不適切表現への対策とは?
現代社会における「不適切な広告」とは?
消費者庁に聞く、消費者保護とデジタル広告の監視強化方針
宣伝会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する