マーケターとしてさらなる成果を出すためには、個人でできることに限りがある。優秀な人材を育成し、強いチームをつくるにはどうしたらよいのか。「CMO X FORUM2022」において実施した座談会で、トップマーケターはどんな方法論で思考技術を身につけ、人材育成をしてきたのか、考えを聞いた。
マーケター思考の極意
☑一番多くの意味がくみ取れる虫眼鏡で、一番多くの関係性が読み取れるアプローチをする(富永氏)。
☑「自分の市場価値を高めて、自分が好きな仕事をする」にはどうしたらよいかを考える(立川氏)。
☑ブランドやモノ、サービスは「媒体」に過ぎず、大切なのは人をどう見て、どう刺激させるか(北川氏)。
言葉を操る「言語化」こそがマーケティングそのもの
──ご登壇の3名はCMOとして数々の組織でマーケターの育成やチームマネジメントに携わっていらっしゃいました。まずはこれまでの経歴についてお教えください。
富永:これまで9つの事業会社でマーケティングに携わってきました。メーカー、小売、外食と業界は様々。現在はAI開発を手掛けるPreferred Networksで勤務しながら、企業や政府関連機関の支援も行っています。
立川:私は新卒で消費財メーカーに入社して以来、マーケティングに従事。10年間で3社の消費財メーカーでマーケティングを経験しました。その後5年間は小売業2社でプロダクトマネジメントにも携わり、直近の4年間は、生命保険会社と損害保険会社でCMOを務めています。
またキャリアの中で3回、専業主婦を経験しています。仕事から完全に離れて生活者の視点に戻った体験が、今の仕事にも生かされていると実感しています。
北川:私はサントリー一筋40年です。商品開発やブランディングの仕事を20年、宣伝部門を10年経験し、現在はサン・アドで広告クリエイティブの制作に携わり6年経ちます。
そこで感じたのは、「マーケター脳」と「クリエイター脳」には共通点があるということ。いずれも人間的であり、文学的であり、哲学的であると思っています。
──皆さんが人材育成の際に実践してきたことをお聞かせください。
北川:マーケティングやクリエイティブの仕事は言語化が難しいと言われますが、難しくても言葉にすることがとても大切だと考えています。イギリスの元首相・マーガレット・サッチャー氏も「考えは言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣となり、習慣は人格となり、人格は運命となる。」という言葉を残しています。私も“マーケティングは言語化できる”という考えのもと、社内では21のキーワードを起点にした研修を行っています。
例えば人間は、AかBか問われるとどちらかを選んでしまう性質があります。飛行機内の食事で「お魚かお肉か?」と問われた時を思い出してもらえばわかりやすいですよね。でも、どちらかを選んでいるうちは新しい発想は生まれてはきません。だからこそ、AとB以外の選択肢を考える力を養ってほしい。例えばですが、こうした思考法をキーワード化して社内に研修を行っています。
富永:私も北川さんと同じ考えです。言葉というのは、「名前」と「意味」の組み合わせ。この言葉を操る言語化こそがマーケティングそのものだと思っています。それを難しいと言ってしまえば、思考停止モードに入ってしまうのかなと考えます。
そして私が大事にしているのは、その思考に斜めから冷や水をかけること。マーケティングは、経済学や哲学、心理学などあらゆる分野を横断していて、その中に様々な洗練されたフレームワークが存在する。そのため、フレームワークを少し勉強すると、それだけでマーケティングをしている気になってしまうんです。
そういう人に対して、では、どうして...