コロナ禍の影響により、日本においても生活者のEC利用率は増加した。しかし、食品、飲料、酒類などの商品をオンラインで購入する生活者はまだ少ない。デリバリーなどの食を取り巻くサービスも台頭する中、食料品ECが他サービスに勝つために提供しうる価値は何なのか。ローランド・ベルガーの小野寺智史氏が解説する。
食品、飲料、酒類 最後の大市場が動き出した
国内BtoC物販EC市場は直近10年にわたり年平均10%近くの成長を継続しています。中でも「書籍、映像・音楽ソフト」や「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」というカテゴリがEC化率の上昇を支えている状況です。しかし、海外に目を向けると、依然として中国・北米の水準には及んでいません。
“Withコロナ”は巣ごもり消費と言われる通り、生活者を半ば強制的に実店舗購買からオンライン購買へ移行させました。それはシニア層においても明確に表れていて、国内人口の3分の1を占めるシニア層もいよいよオンライン購買へと動き出しています。
では、現時点での国内EC化率の低さの要因は何か。それは約67兆円という莫大な市場規模をほこる「食品、飲料、酒類」のEC化率が極めて低いことに起因しています。国内において食料品は依然として実店舗での購買が中心であり、その購買者に占める割合はシニア層が顕著です。
しかし、“Withコロナ”は、ここにも大きな変化をもたらしました。これまで年平均1桁%前半の成長に留まっていた食料品のECは、2020年は前年比で21%成長、2021年には前年比で14%成長にまで引き上げられたのです。シニア層と食料品という、消費者/カテゴリの二大市場が同時にオンライン化へ加速している今、この2つの市場が物販ECにおける今後の主戦場となることは明らかでしょう。
食料品ECの本格浸透 その前に立ちはだかる壁
では、このまま食料品は音楽ソフトや生活家電といったカテゴリと同様に高いEC化率を達成するまでに成長するのでしょうか。ここにはまだ大きな壁が存在するのが現状です。直近の成長は新型コロナという外部要因による部分が大きいです。今後もユーザーが活用したことによる慣れや、シニア層の下支えによって成長は不可逆となると予測される一方、成長率は以前の水準に落ち着いてしまう可能性も考えられます。
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