広告投資のデジタルシフトは進んできたが、それに伴いマスとデジタルの予算配分に頭を悩ませる企業は増えている。今回はジョンソン・エンド・ジョンソンと日産自動車という商材の異なるメーカーの2名に、その意思決定の判断基軸を聞いた。
消費者が求めるものはタッチポイントごとに異なる
──生活者のメディア接触行動が変化するなか、広告主はどのようにメディアプランを考えるべきでしょうか。
趙:正直なところ、時代の変化はあってもマーケティング活動で実現すべき本質は変わっていないと思います。ただ、様々なタッチポイントが増え、同じメッセージを流してもメディアによって消費者の反応が異なってきているため、効率的なメディアプランニングだけでなく、効果的に消費者にアプローチするためのタッチポイント別の活用方法を考えなければならない状況が生まれています。
では、広告メディアを始めとするタッチポイントごとに、ユーザーの反応の差が大きくなっているのは、なぜなのか。
それは、接触している際の「ユーザーの状況」の違いが起因しています。たとえば、YouTubeでMVを見る人は、音楽を聴きながら「流し見」しているかもしれない。SNSでハッシュタグ検索をしている人は能動的に情報を収集しているかもしれない。タッチポイントごと、さらには消費者のその時々の状況に応じて求めるものが全く違うんですね。そこで今、私たちが一番気を付けているのは、伝えたいメッセージはひとつであっても、タッチポイントごとに最も効果の出る表現方法を考えることです。
堤:その課題感は、日産もほぼ同じですね。当社はかなり早くからデジタルへの投資に積極的に取り組んでいて、最近でもおよそ4割の予算をデジタルに割いています。
趙さんがおっしゃる通り、プラットフォームごとに見る側のモチベーションや受容性は違う。その代わり、プラットフォームごとにクリエイティブを変えることでKPIがグンと跳ね上がったりもするんです。
デジタル施策による認知獲得の壁 役割分担を再考すべき段階に
趙:当社では、2015年頃に本社アメリカをはじめ、全社的にデジタルシフトを行うという方針がありました。そこから徐々にデジタルへの予算投下を行い、ここ4~5年デジタル施策に注力することで、新しい取り組みも実現してきましたが、デジタルだけで十分な認知規模を獲得する難しさにも直面しました。
そこで最近は、マスメディアとデジタルの役割分担を再考するタイミングになった感じです。
堤:そこはまさに、各社共通の課題ですよね。うちは4割がデジタルと言いましたが、逆に言えばまだ6割がテレビをはじめとするマスなんですよ。自動車は単価は高いですが、販売台数の目標を達成するには当然、マスへのリーチが必須。「認知をつくる」という点においてテレビは今も圧倒的な存在で、そこに勝るものはありません。
ただ最近、面白い変化だと感じるのは、Twitterなどのデジタル施策がテレビで取り上げられるようになったことです。
例えば、昨年デジタル動画の「ProPILOT GOLF BALL」をつくりました。これは、自動運転技術を身近に感じていただくためにつくった、“必ずカップインする”ゴルフボールを、4歳のお子さんにパターで打ってもらうという映像。何度打っても、必ずカップインします。
その動画がTwitterで拡散されたことでテレビでもたくさん紹介されました。最近ではデジタル施策のアンプリファイヤーとしてのテレビの存在感をより強く感じるようになりました。
“メディアありき”で考えず目的に応じメディアを選択する
趙:当社の社長は長年マーケティングに携わり、メディアへの知見も深いのですが、よく話しているのは投資配分を考える際に、重要なのは金額配分ありきではなく、その役割を理解したうえでの全体最適である、ということです。
マスとデジタルを議論する時、たいてい投資配分が議論になるのですが、本質はその役割を見極めることなのだと、日々我々も意識しています。
堤:“メディアありき”で語りたがる傾向がありますよね。ですがビジネス上の課題を解決するために、何が必要なのかという所からクリエイティブやメッセージ内容を考え、その時に有効なタッチポイントを考える必要があるわけで。この順番を間違えてはいけませんよね...