リテール企業を介して販売していたメーカーも、いまや、消費者と直接つながる時代。特に重要なのが、コマースの戦略だ。これまでメーカーがコントロールできなかったこの領域において、新しい体験づくりへの挑戦が始まっている。11月1日開催の電通アイソバー主催セミナーでは、コマース戦略を切り口に、カスタマーエクスペリエンス(CX)設計のあり方が議論された。
注目される顧客体験の価値 マーケティングの先にあるCX
セミナー前半は、アドビの安西敬介氏と、電通アイソバーの得丸英俊氏の対談から始まった。
冒頭、話題に上ったのが、従来はリテールを介して商品を販売していたBtoBtoC企業も、自社でECサイトを開設することが一般的となり、コマース体験の戦略を意識する必要が出てきたことだ。Amazon、楽天などの大手プラットフォーマーが存在感を増すなか、今後はコマースがCXのひとつの重要な要素となる。コマースを起点としたアフターサービスの充実化や、LTVを見据えたプランニングの重要性が高まってきている。
安西氏は毎年、米国で開催される「Adobe Summit」で発表される、その年のマーケティングを象徴するキーワードを紹介。2014年からのキーワードを振り返り「2015年までは『マーケティング』という言葉が必ず入っていたが、2016年からは使われる頻度が減った」と指摘。こうした例から、業界問わずCXの重要性が高まっているとの見解を述べた。
また同氏は、「カスタマーサクセス」の視点の重要性について言及。ECサイトの活用によって、顧客に利便性のみならず、別の付加価値の提供も考える必要があると話す。
これに関連し、得丸氏からは複数の企業事例が紹介された。「例えば、顧客とSNSを通じ、直接、コミュニケーションを取っている企業であれば、商品の耐久年数に応じた、適当なタイミングでの買い替えや故障修理のリコメンド発信などが付加価値として想定される」(得丸氏)。アフターサポートにコマース体験の価値づくりのヒントがあるとの見解が示された。
後半は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の安藤尚人氏とネスレ日本の島川基氏が登壇。両氏はともに、メーカーにおいてコマースの戦略が重要になっていると指摘。
例えばネスレ日本ではコーヒーマシンの投入以降、モノではなくサービスを提供する姿勢にビジネスモデルが変わってきている。この発想をさらに進化させたのが11月発売の「バリスタ デュオ」。
同製品を、個人を識別し、登録済みのICカード情報と紐づけられるチップを搭載した専用タンブラーと合わせて提供することで、コーヒーを飲んだ人と日時がデータとして取得できるようになっている。これにより、1杯のコーヒーを飲用する瞬間まで把握できるようになるなど、新しいコマース体験をつくっている事例といえる。
一方のJ&Jでも安藤氏が所属するコネクテッド・コマース本部は今年7月に新設された。大手ECプラットフォーマーなどを単なる販売チャネルとしてだけでなく、コミュニケーションのメディアとしても捉えた活用を目指している。ここに同社ならではのコマース体験の戦略が見えてくる。
終了後には、参加者同士が交流する懇親会を開催。登壇者、聴講者がともにメーカーのコマース戦略について議論を交わす1日となった。
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