今月のテーマ:BtoB企業におけるコーポレートブランディング
国内市場を対象に、人的営業によるセールス活動が中心だった、これまでのBtoB企業においては、企業認知の獲得やブランドイメージ醸成は重要視されてきませんでした。しかし海外に進出し、幅広いステークホルダーとの共創が求められている状況下で重要な位置づけになってきているのがコーポレートブランディングです。今号はBtoB企業にスポットを当て、コーポレートブランディングのプロフェッショナルが、そのポイントとノウハウを解説します。
- 自社のWebサイトはブランド発信の強力な手段。まずは「誰のため・何のためのWebサイト」なのかを見直そう。
- エンジニアなど現場で働く社員にヒアリングを行い、自社の技術について自分なりに理解することが必要。
- コンテンツ開発には現場で活躍する社員の監修が不可欠。言葉のレベルを合わせ、目標を共有することが重要。
BtoB企業のコーポレートブランディングのポイント!
ビジネス構造の転換期 「仲間づくり」が喫緊の課題に
BtoB企業がブランディングを行う理由とは何でしょうか。企業の付加価値向上という理由はありますが、喫緊で求められているのは「仲間づくり」だと思います。ご存知のように、様々な業界で既存のビジネス構造が変化しています。我々が属する自動車業界でも「100年に1度の変革」と呼ばれるような大きな変化が起こっており、今まで付き合いがなかった業種の方々との協業・共創が必要になってきました。
ところが、今までの日本のBtoB業界は、我々もそうであったように黒子に徹していたため、どのような企業であるか、どのような技術や製品が特徴なのかをあまり語ってはいませんでした。そのため、特定顧客にはよく知られていても、新規のパートナーには知られることはあまりありませんでした。こうした今まで付き合いがなかった業種の方々、そして消費者に知ってもらうためには、メディアを通じてブランドを発信していくことが不可欠なのです。
ブランドを発信する手段には様々な選択がありますが、まずはWebサイトの見直しから始めることをおすすめします。なぜならWebサイトは、ほぼすべての企業が所有するであろう、有力なオウンドメディアだからです。しかし数年前に開設されたまま放置され、古いコンテンツがWhat’s Newという見出しのままで残っていたり、スマホでは見づらいデザインのままといったことがありませんか。
もちろん、こうしたデザインやコンテンツ面で改善すべき点は目につきやすく気になるもの。しかし、その改善に取り組む前に、まず考えるべきは「誰のため・何のためのWebサイト」なのかということです。Webサイトは多様なステークホルダーが対象になるために、この視点が欠けがちです。
我々のような業態の場合、既存顧客向けに新製品カタログの代わりとしてWebサイトを機能させることもありますが、機密情報が多いため更新が難しく、最新技術の提案についてはエンジニアやセールススタッフが直接顧客へプレゼンする方が良かったりすることがあります。このように、自社にとってのWebサイト活用の目的を精査していく必要があるのです。
エンジニアとクリエイターを繋ぐブランド担当者は翻訳者
Webサイトの対象者と目的が決まったら、次に考えるのはコンテンツです。自社の強みである技術や製品、さらにはビジョンを理解してもらうことが求められますが、BtoB企業の技術や製品は一般的に難解なことが多く、ブランド担当者も理解しきれていないことがあります。この状態で外部のクリエイターなどに制作をお願いしてしまうと、誰にも理解・共感されないコンテンツが出来上がってしまいかねません。
そこで、まずは社内のエンジニアにヒアリングを行い、自社の技術について自分なりに理解するところから始めると良いでしょう。なぜなら社外のクリエイターを含め、技術がわからない人にどのように噛み砕いて伝えれば良いのか、自分なりの解を持てるようになるからです。そうすればエンジニアが発信したい情報を整理することも容易になり、「どのように伝えれば良いのか」の前段階にある「何を伝えれば良いのか」、つまりコンテンツのストーリーづくりを考えやすくなります。
コンテンツづくりを進める過程では、おそらく「機密の壁」に直面すると思います。BtoB企業の技術は自社単独のものだけでなく、共同研究などによる技術も多々あります。そのため、数年後に世に出る技術や基礎研究だけでなくコンセプトすら公開することができないといった事態も発生します。既出の技術を紹介するのが精一杯という事情、いわば「機密の壁」が存在するのです。
もちろん既存顧客からの信頼に応えることも重要なので、「機密の壁」には丁寧に対処する必要があります。ここで上手く利用すると良いのが技術・製品の展示会です。展示会は、コンテンツ開発を一気に進めるチャンスです。なぜなら展示会を開催するとなると、大抵の場合は社内上申による情報開示のチェックも行われるので、それに乗じて「このコンテンツをWebに掲載しても良いですか」とひと言聞くことができれば、その後の開発をスムーズに進めることができるからです。
技術力に強みを持つBtoB企業が、コンテンツで伝えるべきことの中心は技術です。ところが、技術を語ることができるエンジニアが話す内容は、とても難解でわかりにくいものです。一方でエンジニアにとってもブランド担当者の言葉はわかりにくいものなのです。
例えば、「WebサイトのKPIをオーガニックリーチとコンバージョン率に設定しました」といった言葉は、ブランド担当者の自己満足でエンジニアに合わせていないと言えるでしょう。エンジニアから「こいつ、やるな」と思われることはなく、「なんかよくわからない横文字を使う、鼻につく奴」と思われてしまいかねません。こちらが誰にでもわかりやすい言葉で話すことで、相手から情報を引き出しやすくする工夫が大切です …