広告マーケティングの専門メディア

           

変わる、広告戦略の今

目指すは「経済圏」の拡大、ANA、ドコモ各社の新事業開発

青谷 宣孝氏(オークローンマーケティング)、冨満 康之氏(ANA X)

マスマーケティングからデータ、テクノロジーを駆使した「個」のマーケティングへと、宣伝部門に期待される役割は、大きく変わりつつあります。デジタルを含む、広告部門を経験し、現在は新しい領域でチャレンジをする青谷氏、冨満氏の二人の取り組みから、これからの企業におけるマーケティングの在り方、そして宣伝部門の進化の理想について考えます(本文中・敬称略)。

写真左からANA Xの冨満康之氏、オークローンマーケティングの青谷宣孝氏。

新しいノウハウに触れ毎日、刺激を受ける

──お二人のこれまでのお仕事や現在、担っていらっしゃる役割についてお聞かせください。

青谷:私は、2017年5月までNTTドコモ(以下、ドコモ)のプロモーション部長として、マス広告をはじめとした広告・コミュニケーション全般を統括していました。同年、6月からドコモのグループ会社で、「ショップジャパン」のブランド名で通販事業などを行うオークローンマーケティングに出向。オークローンマーケティングには緻密なダイレクトマーケティングのノウハウがあり、メディアのバイイングひとつとってもドコモ時代とは大きく異なるため、毎日刺激を受けています。

具体的に説明すれば、テレビの枠という「舞台」を借りて、そこで一曲歌って覚えてもらうのが、ドコモのプロモーション部時代のメディアや広告の使い方だとすると、ダイレクトレスポンスのビジネスをするオークローンマーケティングは全く異なります。

テレビメディアを使うのは、市場に出店料を払ってブースを出す感覚に近いんです。もし、その出店料が10万円だったら、ペイするには20万円売らないと駄目なわけで、広告の投資対効果が明確です。加えて、いろいろな市場にいろいろな時間に出店してみて、その効果をすべて把握して分析もしています。その膨大なデータを日々、検証しながらメディアプランニングをしているという感じです。

──メディアの使い方も全く異なりますね。

冨満:私は2014年から約2年、全日本空輸(以下、ANA)のマーケットコミュニケーション部でデジタルマーケティング組織の立ち上げと運営に携わった後、2016年4月から2年間、ANAホールディングスのグループ経営戦略室に所属し、ベンチャーキャピタル会社WiL,LLC(以下、WiL)に常駐し、オープンイノベーションによる新事業開発に取り組んでいました。ひとつの成果として、今年1月に伝統工芸ECビジネスの「WAYO」を立ち上げました。

その後、今年の4月からANA Xの顧客戦略部部長に着任しました。ANA Xは、ANAの中でマイレージプログラムの企画・開発・運用を担当していたロイヤリティマーケティング部がスピンオフした会社です。

目指すは“経済圏”の拡大 顧客基盤を生かした新事業

青谷:ドコモもそしてANAさんもインフラ企業であり、メインの事業を大幅に拡大するのは難しい。そうなると、顧客基盤を生かした、新事業開発を目指す方向に向かいますよね。私も今、ドコモグループ内における新事業開発という役割も担っています。

冨満:はい。当社も、NON AIRの事業(航空外収入)拡大を経営戦略のひとつに掲げ、「ANA経済圏」の拡大を目指しています。そういう方向性のひとつとして生まれたのが、「WAYO」のような新事業です。ドコモさんは、ポイントプログラムの「dポイント」を持っていて、なおかつ生活に寄り添った企業なので、本業は全く違いますがプラットフォームビジネスの戦略はいつも参考にさせていただいています。

私が4月から着任したANA Xは従来のマイレージプログラムの企画・開発・運用を担うほか、顧客データベースを保持している部なので、データを軸とした「個」客に対するマーケティングをしていく、さらに航空事業外の日常でお客さまと接点を持てるような新事業を開発するという機能を担っています。お客さまにとって飛行機に乗る機会は、そう頻繁にあるわけではありません。そこで、新事業は日常の中で接点を持てるようなライフスタイル領域のものを考えています。

青谷:冨満さんがいま、「飛行機は毎日、乗るものではない」と話されましたが、実はドコモのような携帯キャリア事業においても、毎日お使いいただくものでありながら、実は接点の少なさが課題になっています。契約の更新頻度は、おおむね約2年。実は、その2年の間、お客さまとドコモショップなどで直接接点を持てる機会がほとんどないのです。

「新しいポイント経済圏をつくろう!」と場をつくったところで、そこにお客さまに来ていただけなければ、そして会話ができなければ、その場はうまく機能しない。そこで、我々のようなグループ会社の役割に期待をされているのだと考えています。

日常の中で接点を増やす 新事業に期待される役割

──今、ABC Cooking Studioやタワーレコードもドコモのグループ会社に入っていますね。

青谷:2008年頃からドコモでは「スマートライフ事業」の拡大を掲げていて、オークローンマーケティングも2009年からドコモのグループに入りました。

冨満:メインの事業にはない新事業の魅力とは、お客さまのデータが取得できるところですよね。

青谷:航空事業もそして携帯キャリア事業も、大きな設備投資をしてサービスを用意して、お客さまが開拓できると、そこまで頻繁にはブランドスイッチは起きなくなります。そうなると、お客さまとのインタラクションが少なくなるので、どうしてもマーケティングのノウハウがたまりづらくなります。オークローンマーケティングでは年間、約580万回のお客さまの購買があるので、ドコモの約7500万の顧客基盤とオークローンマーケティングのデータを掛け合わせながら新事業開発を進めていこうとしているところです …

あと64%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

変わる、広告戦略の今 の記事一覧

有力企業44社に聞く宣伝部長の課題と挑戦(5)
有力企業44社に聞く宣伝部長の課題と挑戦(4)
有力企業44社に聞く宣伝部長の課題と挑戦(3)
有力企業44社に聞く宣伝部長の課題と挑戦(2)
有力企業44社に聞く宣伝部長の課題と挑戦(1)
デジタル時代のマーケティングだから考える、チーム編成のあり方
スペシャリストかジェネラリストか 宣伝部門の人材育成をどう考える?
AIで宣伝部はどう変わる?! 西脇資哲氏に聞く、未来予想図
目指すは「経済圏」の拡大、ANA、ドコモ各社の新事業開発(この記事です)
宣伝部長を対象に調査ー組織に人材育成、今後の課題と挑戦
宣伝会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する