シニア世代が最も接しているメディアである「テレビ」。そのシニア対応について、4月からスタートしたテレビ朝日のドラマ番組「やすらぎの郷」を中心に、メディアコンサルタントの境治氏に解説してもらった。


石坂浩二さんが主演を務めたテレビ朝日「やすらぎの郷」(上)は、9月29日で最終回を迎えた。同じ時間帯(毎週月~金曜日・12:30~12:50)で、10月2日からは「トットちゃん!」(下)がスタートする。
視聴率を追う中で"おばさん化"するテレビ
編集部より、テレビ放送のシニア戦略について書いてほしいとの依頼を受けた。だが、各テレビ局はシニアについての戦略をはっきりと立案できているとは言えない、というのが筆者の印象だ。むしろ、テレビ放送と世代の関係に苦慮しつつ、新しい方策を模索しているのが現状だと考える。
「若者のテレビ離れ」が指摘されて久しいが、正確にはこれは「放送離れ」だ。若者たちは、好きな時間に好きなテレビ番組を選んでスマートフォンで視聴する。
一方、決まった時間にテレビの前で視聴する「放送」形式は高年齢層ではいまだに根強い。どうしても在宅率の高い年配の女性向けに番組をつくったほうが視聴率をとりやすいので、テレビ番組が健康や生活の知恵などを多く扱う傾向が近年、如実に出ている。筆者はこれを「テレビのおばさん化」と意図的に嫌な言い方で評してきた。
これはテレビ局が意図してそうなったと言うより、視聴率を日々追ううちに自然とそうなってしまった、というのが実情だと思う。実際、ある番組のプロデューサーは、同時間枠で他局のドラマの視聴率がいい時は、F3層をごっそり持って行かれてしまうので対応に苦慮すると言う。視聴率は高いほどいい、というのは基本だが、この傾向が進むと若い視聴者がますます離れ、テレビCMを出稿するスポンサーのニーズとの乖離も起きがちだ。
私は「おばさん化」という表現で、このことに警鐘を鳴らしたかった。ただし、視聴率トップの座にいる日本テレビは、ファミリー層の視聴を着実に獲得しており、その中に年配層もいる、という視聴傾向を確立している。全体的な視聴率を高いレベルでうまくコントロールしているようだ。
「やすらぎの郷」が提案するシルバータイムドラマの意味
そうした中、テレビ朝日がこの春からスタートさせたのがドラマ「やすらぎの郷」だ。月~金の昼12:30からドラマを放送するという編成が驚きだった。さらに、脚本家・倉本聰が「シルバータイムドラマ」のコンセプトを掲げていることにも衝撃を受けた。「お年寄り向け」をはっきり明示する番組は意外になかったのだ。テレビ局にはどこか「新しいこと」を追い求めるのが信条、という本能めいたものがあったからだ。
描かれるのは架空の老人ホーム。テレビ界に貢献した俳優や脚本家、音楽家など様々な人々が招かれて入居する施設だ。出演者はそれぞれ、実際にテレビ界で活躍した名優ばかりで現実と交錯するのも面白い。石坂浩二演じる主人公の脚本家はどう見ても倉本聰の分身であり、また現実に過去に石坂浩二と結婚もしくは交際していた浅丘ルリ子と加賀まりこも出演する。巨匠・倉本聰があえてそういう過激なメタフィクションに挑んでいることに、凄みを感じる ...