日本でも議論されるようになったCSVは、従来のCSVとはどう違うのか。長年、経営とCSRの関係性を研究し、CSVにも知見のあるニッセイ基礎研究所の川村雅彦氏は、CSVの理解を深めるために、CSRやソーシャルグッドの本質を改めて理解することが不可欠だと説く。

企業が事業を通じて社会に及ぼす影響はリスクになりうるという認識から、リスクマネジメントの一環としても求められる「第一のCSR」と、自社の強みを活かした社会課題の解決をビジネスチャンスとして見出す「第二のCSR」は、車の両輪のようなものだという。
「本来のCSR」とCSVの関係
昨今、「CSRからCSVへ」と盛んに言われていますが、その背景には、「CSR=社会貢献活動」という前提(思い込み)があるようです。マイケル・ポーターは、フィランソロピー(慈善事業)では価値創造も社会変革も起こせないと訴えていますが、その通りだと思います。しかし、フィランソロピー自体をCSRと位置付けることには賛同できません。「本来のCSR」とはまったく異質のものだからです。
国際標準化機構が世界の政府と産業界を含むステークホルダーの英知を集め、10年の歳月をかけて議論し、2010年に発行したCSRの国際規格として、ISO26000というものがあります。そのCSRの定義は、「企業の意思決定と事業活動が社会や環境に及ぼす影響に対する責任」です。つまり、自社のビジネスが人権・労働、消費者や環境などに悪影響(可能性)を与える場合、誠実かつ適切に対処すべきということです。これが「本来のCSR」です。
ピーター・ドラッカーは大著『マネジメント』の冒頭で、CSRについて明確に述べています。マネジメントには自らの組織を通じて社会に貢献させる役割が3つあるとしています。それは、(1)自らの組織に特有の使命を果たすこと(2)仕事を通じて働く人を活かすこと、そして、(3)自らの組織が社会に与える影響を処理すると共に社会の問題の解決に貢献することです。この3つ目がCSRであり、CSRの第一義は「自社の社会に及ぼす影響への責任」(必須)、第二義が「社会全体の問題解決に向けた責任」(挑戦)としています。
企業が事業を通じて社会に及ぼす影響への責任を …