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トップの発信 支える広報

トップはコロナ禍で何を語るべきか? 戻るべきは経営の原点

柴山慎一(日本広報学会理事長)

コロナ禍で先行き不透明な今、経営トップの言葉は企業の道しるべともなります。各ステークホルダーの心を離すことなく、事業を存続していくためにその発信力が試されています。それを裏で支える広報はなにを押えるべきか。有事のトップ発信におけるもつべき視点を整理します。

先行きの読みにくい有事の環境下においてこそ、その不透明な未来を読もうとするのではなく、経営の原点、人間の原点に還って、そこにある本質を探る方が有意義ではないかと感じています。平時には耳を傾けなかった多くの社員でも、昨今のような有事においては、経営トップの語ることに注目しています。経営トップの言葉は、有事においてこそ重みをもつものです。

広報は情報参謀であれ!

そもそも企業など多くの組織は、平時を前提にしたものであり、有事においては機能しない部分があります。経営モデルには、平時のものと有事のものとがあります(図表1)。コロナ禍のような有事においては、コンセンサス重視の調整型の経営トップよりは、即断即決のブレのない決断力と実行力のある経営トップが求められます。結論の先送りで失うものは多くなり、責任と権限、情報はトップに集中し、状況に応じた素早い意思決定が求められるのです。

図表1 平時の経営モデル、有事の経営モデル

出所/筆者作成

経営トップとの関係において、広報の役割は、広聴機能により受信された情報をトップに伝達することと、得られた情報に基づくトップの意思決定を広報機能によって社内外に広く発信していくことに尽きます。

広報パーソンは、情報参謀として、平時においては、情報の受信、発信の機能において経営トップの代理機能を果たすことが求められますが、有事においては、平時以上に経営トップの近くにいて、一体となって行動することが求められるようになります。

ここにおいては、経営トップとの信頼関係が醸成されていることは大前提となります。トップが信頼する広報とは、耳障りの良い情報だけを届けるのではなく、決して耳障りの良くない情報を、自分の「意見」としてではなく、客観目線で正確な「事実」として伝えられるかに尽きます。

広報の原点は、会社の常識に染まった社内のコンセンサスに社会の常識を注入することです。会社の常識と社会の常識との調整役が広報の重要な役割のひとつです。有事こそ、この原点に立ち還り、社会の常識を、インターナルコミュニケーション活動によって社内に広く浸透させ、信頼関係に基づくトップリレーションによって経営トップに進言していくことが求められます(図表2)。有事こそ、「上を見るな、外を見よ」ということでしょう。

図表2 広報は社会と会社の調整役

出所/筆者作成

有事に求められる原点とは

過去の成功した経営者のメッセージや有事下における最近の経営者との接点で耳にする言葉などから、経営の原点や人間の原点に関わる3つの共通点を見出しましたのでここに整理しておきます。これらを踏まえた上で、有事における経営トップのあり方、広報のあるべきスタンス、すなわち広報の原点について考えていただけたらと思います。

有事で還るべき原点❶

自身を見つめ直す

渋沢栄一は、「信用はのれんや見た目から得られるものではなく、確固たる信念から生まれる」「夢なき者は理想なし、理想なき者は信念なし、信念なき者は計画なし、計画なき者は実行なし、実行なき者は成果なし、成果なき者は幸福なし、故に幸福を求める者は夢なかるべからず」と、経営にも人間にも夢に基づく理念、信念の重要性を説いています。有事においてこそ、自身を見つめ直し、創業者の夢や創業時の理念に還ることが重要ということでしょう。

また、松下幸之助は、「正しく反省する。そうすると次に何をすべきか、何をしたらいかんか、ということがきちんとわかるからな。それで成長していくわけや、人間として」と、自身のこと、自身の行ったことを反省することで己の強み、弱みを見極めることができ、次なる成長が生まれると教えてくれています。失敗や逆境こそ成長の糧ということでしょう。

最近、ある経営者との会話の中でも、「在宅勤務で静かにひとりで考える時間があったので、学生のように自社のSWOT(Strength:強み、Weakness:弱み、Opportunity:機会、Threat:脅威)をあえて書き出してみたら、ちょっとした発見がありました。ひとりの時間が増えると自分を見つめ直す時間がつくれますね」と笑顔で語ってくれました。

創業の精神に還ることや理念を見つめ直すことも有効でしょうが、ウィズコロナ、ニューノーマルという大きな環境変化の下、自身の強みや弱みを再認識することも、原点に還るということになるでしょう。ここにおいては、継承して守り育てるべきものと、きっぱりと断捨離すべきものとを見極めることが重要になります...

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