トップはコロナ禍で何を語るべきか? 戻るべきは経営の原点
コロナ禍で先行き不透明な今、経営トップの言葉は企業の道しるべともなります。各ステークホルダーの心を離すことなく、事業を存続していくためにその発信力が試されています。それを裏で支える広報はなにを押えるべきか。有事のトップ発信におけるもつべき視点を整理します。
トップの発信 支える広報
経済広報センターが主催する企業広報賞のうち、社内外への優れたトップ広報を実践した経営者に贈られる「企業広報経営者賞」。2020年、同賞に選ばれたのがキリンホールディングスの磯崎功典社長だ。
企業広報経営者賞受賞
2020年の企業広報賞「企業広報経営者賞」表彰式に出席した磯崎氏。経営改革を断行しながら、メディア、投資家、従業員と各種ターゲットに共感を得られる発信や広聴を行い、トップ自ら説明責任を果たした点が受賞の決め手となった。
DATA | |
---|---|
|
酒類・飲料、医薬、そしてヘルスサイエンス領域へと事業を拡げるキリンホールディングス。様々なグループ企業を擁することから、ステークホルダーの多さは想像に難くない。経営改革を断行しながら、メディア、投資家、従業員と、各種ターゲットに共感を得られる発信や広聴を行い、トップ自ら説明責任を果たしたとして、社長の磯崎功典氏が、2020年の企業広報経営者賞に選ばれた。
賞を主催する経済広報センターが挙げた受賞理由の中で、編集部は以下2点に注目。それが、❶広報の経験を活かしていること ❷社内外のステークホルダーごとにストーリーを構築することで、高い共感性を獲得していることだ。
前述の通り、磯崎氏は広報出身。2001~2004年まで広報部担当部長を務めた。「その経験は今に活きています」と強調する磯崎氏。例えば、メディアや投資家らとのやり取りに関し、「彼らに対しては、適度な緊張感を持ちつつ対等に対話することが肝要です。それを積極的に今できているのも、広報を経験したからこそ」という。
また、❷にもつながってくるが、広報部を経て得た教訓として、より共感を生むために、単にファクトを伝えるのみならず、各ステークホルダーの求めるストーリーを絡めた発信を行っているのも、その当時身に付けたスキルだという。
現・広報部員の玉井邦明氏もこう語る。「案件によって異なりますが、基本的に社長が発信する文言は、社長とのブリーフィングを重ねて広報が素案を作成し、関係部署からも助言をもらいながら、最終的に社長が完成させています。そこで、意識しているのが、日頃社内外で発信している情報との乖離やブレのない、一貫したストーリーを描けているか、です」。
では、どのようなストーリーを持たせているのか。ひとつの事例として、磯崎氏の従業員に向けたCSV経営に関する発信を取り上げる。
磯崎社長がCSV経営を提唱し始めたのは、2013年1月。CSV経営とは...