企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます
今回のポイント | |
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① コロナ禍で必須に、共感醸成「トップコミュニケーション」 | |
② 動画領域のオウンドメディア・ソーシャルメディアの強化 | |
③ 各メディア、プラットフォームとユーザーの理解が不可欠 |
2020年から続くコロナ禍は2年目に入りますが、コロナによる危機的状況が常態化しつつあるように見えます。危機的状況においてリーダーシップの優劣が大きな影響をもつのは、古今東西いつの時代どこの国でも同じでしょう。組織が未曾有の危機を生き延び、乗り越えるために欠かせないのは、すぐれたトップコミュニケーションです。
今回は「With コロナ」すなわち「コロナとともにある社会」におけるトップコミュニケーションのあり方を考察します。
経営戦略として重視
企業広報戦略研究所の調査(企業の広報活動に関する調査)では、2020年に広報力が高いと評価された企業のトップコミュニケーションでも、接触機会の回避により「トップと従業員が直接会う機会」(2014年94.5%➡2020年84.7%)、「トップが報道機関と懇談する機会」(同64.4%➡56.4%)と減少し、トップとステークホルダーの接触に関するスコアが低下しました(図1)。
第1回企業の広報活動に関する調査2014年 評価Sランク企業73社
第4回企業の広報活動に関する調査2020年 評価Sランク企業163社
※Sランク企業:調査において広報力が上位と診断された企業 企業広報戦略研究所調べ
一方で、日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)が同年に実施した調査では、今後の企業広報における強化すべき業務として、「従業員エンゲージメント」「トップをはじめとしたマネジメント層のコミュニケーション」「オウンドメディアでの情報発信」が上位を占めました。これら調査からも、接触の減少がガバナンスやコーポレートブランディングの課題に直結していることが見受けられます。
なお、前述の当研究所の調査に立ち戻ると「広報戦略は経営戦略とリンク」(同61.6%➡88.3%)、「社内・外の担当者がトップのメッセージを広報的視点を持って作成」(同64.4%➡76.1%)、「危機管理委員会等が継続的に開催され広報部門が参画している」(同53.4%➡69.9%)などが増加しており、広報がいっそう経営戦略寄りの立場を取る必要性が高まっています。
情報接触や感度変化への対応
現在多くの企業で、テレワークなどの働き方が広がっています。その結果、株主総会に加え記者発表、インタビュー取材、社内イベントでさえも、オンラインでのコミュニケーションへとシフトしています。
PRSJの調査では、今後重視すべきステークホルダーの回答数は、これまで十分ケアがなされているマスメディア以外は総じて増加していました。
特に回答者数割合で差が大きかったのは、「ソーシャルメディアのインフルエンサー(コロナ前38%➡コロナ後94%)」「生活者(同47%➡97%)」「WEBニュースプロバイダー(同49%➡93%)」となっており、今後を象徴する結果とも言えます。
これはコロナによってオンライン化が加速した結果、今まで以上に親近感や共感を抱きやすいソーシャルメディアとの接触が増加したことが要因のひとつであり、トヨタをはじめとしてタニタ、ペッパーフードサービスなどの企業トップがYouTubeに積極的に登場し、自社の戦略や製品を紹介したり、インフルエンサーと対談する例などからも裏付けられます。これらは、ステークホルダーの“情報接触変革”であり、トップコミュニケーションにおいてもこれらを踏まえた対応が必要となります。
オンラインの積極的な活用
DX時代のトップコミュニケーションでは、オンラインで各ステークホルダーに対してきめ細かに行う手法が求められています。
各メディア、プラットフォームの特徴を理解し、発信する状況や目的に応じたテクニックも不可欠です。背景や照明、テロップ使用などは重要ですし、またオンラインでは画面に大きく映るため、表情や視線、姿勢をはじめ、共感を促すストーリー、声のトーンなどの演出も必要です。オンラインの特徴であるアーカイブ性や拡散性、データ収集機能などを鑑みると、オウンドメディアやソーシャルメディアの戦略的活用は企業広報のカギを握ることになります。
ここで大事なのは、企業の経営層が、ステークホルダー視点に基づき、感度や嗜好を理解し寄り添い、ビジョンやパーパス、本業を通じたソーシャルバリューへの寄与のあり方、企業活動の方向性に関する明確なメッセージを発信することです。

企業広報戦略研究所 上席研究員
(電通パブリックリレーションズ デジタルアクティベーション部部長)
橋本 良輔(はしもと・りょうすけ)
デジタルを軸にパブリシティ領域を超えたコミュニケーション戦略の立案、ソリューション開発、メディアを含む専門家などのインフルエンサーリレーションズを手掛ける。企業広報戦略研究所では、情報流通デザイン、コーポレートコミュニケーション戦略を軸とした研究業務に従事。日本パブリックリレーションズ協会40周年記念事業実行委員会メンバー。
企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究を行う。https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/
OPINION
共感を生むためには企業・トップ自らの発信が不可欠
ソーシャルメディアの魅力は3軸あります。1つめは感性訴求性。偽りのないリアル感が強く、親近感を抱き、信頼や共感につながる。2つめはデバイス。スマホに最適化された動画をいつでもどこでも気軽に見られる。3つめはアルゴリズム。嗜好に合わせたレコメンドが視聴習慣を強固にします。また、最近はソーシャルメディア検索でより深くて分かりやすい情報が得られることに年齢問わず多くの人が気付いています。
今や企業トップとして社内外から共感を得ることは重要な任務であり、ソーシャルメディア活用も欠かせません。そしてトップや企業が直接発信することが不可欠です。YouTubeでもテーマやチャンネル次第では、ちらっと出演しただけで大きな反響を得ることもあります。
私の経験では、企業のエグゼクティブクラスからの感想や出資の打診もあったほどです。情報発信を積み重ねていくことで、取材依頼も増えました。もちろん、自らのメディアアカウント運営には、投稿やコンテンツをコツコツ積み上げることが大切です。ただ、積み上げたものは間違いなく自社の財産になります。

BitStar
代表取締役社長CEO
渡邉 拓氏
*詳細は当研究所サイトにて。
https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/csi-topics/20210201.html
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