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データで読み解く企業ブランディングの未来

ニューノーマルにおける広報戦略立案のススメ

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① 新型コロナで顕著になった「危機管理力」
② 今後の強化ポイントは“創造的な情報発信”
③ インターナル起点の価値創出と戦略性がカギ

企業の広報活動の実態や課題を探ることを目的に、当研究所では2014年から上場企業の広報担当者を対象に「企業の広報活動に関する調査」を隔年で実施している。

第4回目の今年は、新型コロナにおける平常時(2020年1月:日本におけるコロナ流行直前)、緊急時(4/7~5/24:コロナ禍緊急事態宣言下)、緊急事態宣言解除後(5/25以降)の3つのフェーズに分けアンケート調査を行った。コロナ禍で多くの企業で従前の経営計画下における広報戦略の練り直しが迫られる中、今後注視すべき広報力と広報戦略について今回の調査結果から考察する。

コロナ流行期は広報力が停滞

経年比較では、2018年までの広報力と、2020年は平常時(コロナ流行直前)のデータを対象とした。当研究所が定義する企業の広報活動に必要な8つの広報力のうち、「情報発信力」のスコアが高いなど、広報力のバランスについては前回調査と同様だった。調査を重ねる毎に全体的にスコアが伸長しており、各社とも広報力強化に努力し、それが実っていることが見て取れる(図1)。

図1 企業の広報力(経年変化)
※2020年は平常時(1月時点)データを対象
「第4回 企業の広報活動に関する調査」企業広報戦略研究所調べ
調査対象:東証一部・二部、東証マザーズ、ジャスダック、札証、名証、福証に株式上場している企業(3,651社)。広告・PR業他社は除く。
調査期間:2020年5月22日~8月7日
(本調査については3つのフェーズで企業側に回答を依頼。「平常時(コロナ前)」2020年1月末時点、「緊急時(コロナ禍)」2020年4月7日~5月24日、「解除後」2020年5月25日以降)
調査方法:郵送・インターネット調査
有効回答:474社
有効回答率:12.9%
*戦略構築力:経営課題に対応する広報戦略の構築と、ステークホルダー別の目標管理、見直しを組織的に実行する能力
*情報創造力:ステークホルダーの認知・理解・共感を得るために、メディア特性に合わせたメッセージやビジュアルなどを開発する能力

また企業活動における「社会課題への取組み」がより重要となり、外部情報を収集、分析した上で自社の情報発信を強化する動きが高まったタイミングだったと推察できる。特筆すべきは「危機管理力」の伸張だ。新型コロナに対する警戒感、緊張感が背景にあると推測される。今年のスコアは緊急時における広報力を測る1つのベンチマークとなり得るだろう。

一方、今回調査の平常時とコロナ禍の緊急時で比較すると、レーダーチャートの形状に大きな変化はないが、8つの広報力すべてが緊急時ではポイントが低下した(図2上)。特に「関係構築力」は10ポイント以上減少しており、コロナ禍で広報活動が物理的に制約を余儀なくされる中、ステークホルダーとの関係性を築くことの限界を示している。

内訳(図2下)では、「トップと従業員が直接会う機会を設けている」「トップが報道機関と懇談する機会を設けている」などトップに関する項目で減少幅が大きく、有事の中でトップがいかに社内外との関係を築いていくか、リーダーシップを発揮できるかなど、広報としてはその実行の手立てを準備することが重要といえよう。

図2 企業の広報力比較(平常時、コロナ禍の緊急時比較)
※平常時:2020年1月
コロナ禍の緊急時:4月7日~5月24日

資産を価値へ「情報創造力」

新型コロナの流行がある程度収束した後、ニューノーマルにおいて企業広報はどんな方向へと向かうのか。緊急事態宣言解除後の、広報力強化のポイントを尋ねたところ、強化したい広報力の上位15項目中、約半数の7項目が「情報創造力」と「戦略構築力」に紐づく結果となった。

本ケースで紹介している三井化学の「ありがとう 炭鉱電車プロジェクト」は、自社資産を社会価値へと変換する「情報創造力」に力点が置かれた事例。三井化学大牟田工場において原材料の搬入等に使用していた三井化学専用線(旧三池炭鉱専用鉄道)が2020年5月に廃止。100年以上の長きにわたり活躍を続けた炭鉱電車への感謝を込め、人々の記憶に残る「映像」と「音」をアーカイブ化、誰もが使えるオープンソースとして公開するなど、企業が長らく果たしてきた社会的存在意義を「感性」に訴えかけている。

BtoB企業でも、工夫次第で本業を通じた社会価値への貢献を幅広い生活者に対してアピールできるのだ。

見直される「インターナル活動」

コロナ禍でインターナル活動を注視する志向も強まっている。「広報活動において重要なステークホルダー」は、1位「株主・投資家」2位「顧客」に次いで「従業員とその家族」が3位となり、4位の「メディア」を上回った。「従業員とその家族」が「メディア」を上回ったのは2014年本調査開始以来初めてだ。

三井化学の例にもあるとおり、先行き不透明な経営環境だからこそ、社内のレガシーや人材、組織の“らしさ”を今一度捉え直し、それらを社会価値に変換してコンテンツ発信するなど、社会とのエンゲージメント強化のチャンスとして捉え、活動する機会かもしれない。

企業広報戦略研究所 上席研究員
電通パブリックリレーションズ
中 憲仁(あたり・のりひと)

コミュニケーションに関する調査、広報効果測定から、各種インタビュートレーニング、メッセージ開発などに従事。調査結果に紐づいた広報戦略立案、企業広報アドバイザーとして幅広く従事。BtoC企業、自治体、官公庁、インフラ企業、メーカー等幅広く手掛ける。2020年1月より、企業広報戦略研究所の部長を担務。企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究を行う。https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/

CASE

素材の魅力を機能、感性で引き出し 未来の可能性を生み出す

三井化学の「炭鉱電車プロジェクト」は我々のレガシーである古い資産を社内外にどう伝え残していくべきかを感性的アプローチで捉え直し、社会にシェアしたことで良い反響を得ることができました。また当社は2015年に三井化学グループのオープン・ラボラトリー活動として「そざいの魅力ラボ-MOLp®」を立ち上げています。化学メーカーとして様々な素材の中に眠っている機能的価値や感性的な魅力を、五感を研ぎ澄ませて再発見し、そのアイデアやヒントをこれからの社会のためにシェアしていく活動です。

広報として、活動範囲を規定せずに自分たちで価値と可能性を発見し、自らが表現、語ることに重きを置いています。素材の中にある機能的な価値や感性的な魅力を引き出し、コラボレーションから生まれるイノベーションの推進を通じ新しい可能性を提示したいと思っています。

詳細は企業広報戦略研究所サイトにて
https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/csi-topics/20201101.html

写真左から、ソウルボート 瀬木監督、三井化学 大牟田工場 高井工場長、大牟田市 関市長

三井化学
コーポレート
コミュニケーション部
松永有理氏

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