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「新たな視聴習慣の創造を」 藤田晋社長が提言するメディアの価値

藤田晋(サイバーエージェント 代表取締役社長)

インターネットテレビ局「AbemaTV」が話題のサイバーエージェント。3カ月半で600万ダウンロードという勢いの裏には独自の経営スタイルがあり、「新たな視聴習慣を創出したい」という、藤田晋社長のビジョンに基づいている。

サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋(ふじた・すすむ)氏
1973年生まれ。人材会社を経て、1998年にサイバーエージェントを設立、代表取締役社長に就任。2000年、最年少上場社長(当時)として東証マザーズに上場、2014年に東証一部へ。新経済連盟副代表理事を務める。

サイバーエージェントの藤田晋社長といえば、日本のインターネット業界の中で誰もが認める成功者といえるだろう。1998年に創業し、2004年には黒字化。2008年ごろからは「Ameba事業」への投資でその利益は一気に右肩上がりに。近年はスマートフォンゲーム事業の成功でその勢いは加速し、2015年9月期の連結売上高は2543億円となった。そんな成長を支えてきた、経営と一体となった企業広報の手腕にも定評がある。

他社が参入する前に先行投資することで市場の主導権を掌握する──その先見の明は「リスクが少なく、 リターンが大きいもので勝負する」という考え方に基づいている。藤田社長は「インターネット産業自体、俯瞰してみれば右肩上がりで成長することは明らか。なおかつ、かかるコストは人件費くらいというローリスクハイリターンの産業だからこそ、恐れず先行投資ができる」と語る。

4月11日にはインターネットテレビ局の「AbemaTV(アベマティーヴィー)」をスタートさせたばかり。会員登録不要で無料視聴ができ、コメントや動画の投稿も可能なSNS連携など、従来のテレビとは異なる機能を持つ新たなメディアだ。サイバーエージェントとテレビ朝日の出資により設立された企業が運営しており、開局3カ月半でアプリ版は600万ダウンロードにまで達した(7月25日現在)。

惜しみない投資と場所づくり

同社のイノベーションの姿勢は、特徴的な組織づくりにも起因している。例えば、Jリーグの入れ替えシステムのように営業利益額別に個別の事業を10のランクに分類し、新規事業の昇格・撤退のルールを明確化した「CAJJプログラム」。この制度により、感情的な判断ではなく一定のルールによって経営の舵取りが可能となった。一見すると「成功は難しい」と思われた事業もスタートさせることができ、後に大規模なビジネスに飛躍した例もある。「将来、足かせになりそうな芽は早々に摘み取り、伸びそうな種への投資を惜しまないこと。これが中長期的な成長につながっていると思います」。

また、取締役ら選抜された社員がビジネスプランや課題解決に向けた案を考える1泊2日の合宿「あした会議」も、会社の成長に大きく影響する行事だ。スマホゲーム事業もこの合宿を契機に立ち上がったという。日々の業務に追われていると新しい事業を皆で考えるチャンスはなかなかない。集中的に事業について考える合宿に藤田社長も参加することによって、スタートさせる事業や担当者をその場で決議することができる。

「あした会議」では、取締役と選抜された社員が合宿中にビジネスプランや課題解決に向けた案を考える。

挑戦と安定は常に隣り合わせ

人事制度もまたユニークである。「若い社員が活躍している会社」というイメージどおり、社内の平均年齢は2015年9月時点で30.9歳。若手の活躍の場を設けることにも積極的で、これまで新卒入社した社員のうち45人が子会社の社長に就任している。

加えて、「CA8」「CA18」という制度も同社のアグレッシブな経営体制を象徴している。まず「CA8」とは、会社のトップである8人の取締役のうち2人を2年ごとに入れ替えるという制度だ。取締役に就任すると十何年もその席に留まると思いがちだが、会社を指揮する取締役が誰よりも向上心を持って働かなければ部下も会社についていこうとは思わない。「この制度を設けることで、取締役の社員が『絶対に降格したくない』と死ぬ気で働くようになりました」。

一方、2014年からはCA8のメンバーに10人を加えた18人で構成される「CA18」制度も設置。次世代の経営陣育成を目的としており、こちらは1年ごとに3人が入れ替わるため、社員はメンバー入りを目指して日々の業務に励んでいる。

さらには、「社内キャリアエージェント」の設置や本社から2駅の距離までに住むと家賃補助が出る「2駅ルール」、在宅勤務や妊活休暇にまつわる制度「macalon(マカロン)パッケージ」の導入など、「働きたくなる」会社を形成するための福利厚生にも定評がある。

新事業が描くテレビの未来図

そんな同社が今、新たなサービスとして注力しているのがインターネットテレビ局のAbemaTVだ。藤田社長によると、AbemaTVのビジネスモデルは当初から明確に定まっていたわけではない。2014年、アメリカの動画配信ネットワーク「Netflix」の日本上陸がテレビ業界で話題となったとき、「IT企業の経営者として、いつ、どのような形で動画サービスに参入するか」を画策していた。「かつてワンセグがスムーズに視聴できず、まったく使われていなかったという事実を重く見ていた。スマホでテレビを見るならば、快適にそのメディアに触れることができるかどうかがカギだと思ったんです」。

そこで藤田社長がこだわったのが、スマートデバイスによる視聴環境の快適さを追求したUI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス)の開発だ。「サイバーエージェントがインターネットテレビ事業に進出した理由は、テレビ局や出版社にはないシステム開発やUIをつくるデザイン力や技術が当社にあるという自信があったから。それなら当社がやるしかないと思ったんです」。

最終的なゴールに据えているのは「新たな視聴習慣の創造」だ。昨今のインターネット動画サービスは、多くの映画や番組が用意されているものの、見たいコンテンツを探すには少々手間がかかる。

「家に帰ったときや空き時間に、『何か面白い番組はないかな?』とテレビのスイッチを入れるようにAbe maTVにアクセスする。そんな習慣をつくりたい。そのためには、今ネット上に転がっているようなコンテンツではなく、テレビと同等にクオリティの高い、面白いものを世の中に提供し続ける必要があると考えているんです」。

AbemaTVはテレビのように常に何らかの番組をチャンネルごとに放送している点が特徴。受け身で「何となくコンテンツを楽しみたい」と考えるユーザー向けの新たな視聴サイクルの創造にチャレンジしている。

今年4月11日に開局したインターネットテレビ局「AbemaTV」は、わずか3カ月半でアプリ版600万ダウンロードを記録した。

8月2日、事業構想大学院大学にて藤田晋社長による講演が開催され、新規事業の構想を学ぶ約60人が熱心に聞き入った。

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