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青山広報会議

デル、富士重工業の広報部門責任者が語る PRとマーケティングが融合した取り組み

富士重工業×デル

企業において広報と宣伝の境界、縦割り組織の弊害といった課題は常につきまとう。今回は「コーポレートコミュニケーション改革」「PRとマーケティングの融合」をテーマに、デル、富士重工業の広報部門責任者が現在の戦略や効果測定の考え方を語った。

※本記事は4月12日・13日に宣伝会議主催のイベント「AdverTimes DAYS 2016」内で行われた講演をレポートしたものです。

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(左)富士重工業 広報部長 兼 スバルネクストストーリー推進室 担当部長 岡田貴浩氏
(右)デル 広報本部 北アジア地域統括本部長 関口良幸氏

数値では測れない指標も

編集部:本日は、「PRとマーケティングの融合」というテーマで、デル、富士重工業でそれぞれ広報部門を統括するお二方にお話をうかがっていきたいと思います。まずは自己紹介からお願いできますか。

関口:私はデルに移ってから今年で6年目、現在は北アジア地域統括本部長を務めています。世界180カ国で事業展開しており、「デル=PC」というイメージを持たれている方も多いと思いますが、実は非常にダイナミックな変化のさなかにあります。ソリューション・プロバイダーへの事業転換、そして本国での企業買収などを受けて、日本法人の広報部では対外的な広報はもちろん、インナーコミュニケーションにも力を入れているところです。

編集部:2015年はトップ交代があり、IBMで広報担当役員をご経験された平手智行社長が就任されました。『広報会議』本誌でもインタビューさせていただきましたが、広報体制を大きく改革されたとのこと。

関口:新トップの就任後すぐに言われたのは、「広報活動は水物だから完全な効果測定はできない、といった固定概念を捨てろ」ということ。社内ではよく「コンフォートゾーンから抜け出そう」と表現しています。トップが広報に精通していると仕事はしやすいですが、プレッシャーを感じます(笑)。

岡田:富士重工業は、自動車部門、航空宇宙カンパニー、産業機器カンパニーの3つの事業体を持っており、基幹事業は売上の95%を占めるスバルブランドの自動車部門です。広報部のメンバーは15人で、国内外の企業広報と商品広報、IR、インナーコミュニケーションを統括しています。

編集部:2015年には「スバルネクストストーリー推進室」という部署を新設されましたよね。

岡田:はい。私は2014年から広報部に移りましたが、それまでは8年間、マーケティング推進部でスバルの広告宣伝活動に携わっていました。その当時から、車を購入したお客さまは「スバルの車がある生活」を買うわけですので、「車を販売した後のマーケティング」こそが必要ではないかと感じていました。

しかし宣伝や販促の管轄では、「車を売るまで」が主軸となりがちです。費用対効果が見えにくい活動はなかなか進めることができません。そこで2年前に計画を立てて、2015年4月に新たな部署として「スバルネクストストーリー推進室」を立ち上げたんですね。この部署の使命はスバルユーザーやファンにスバルの車がある生活を楽しんでいただくためのコミュニケーションを考えていくこと。そのためには時には費用対効果を度外視した活動も必要で、それは宣伝や販促の発想だけでは実現しえないものでした。現在は、広告宣伝を統括するマーケティング推進部長と、広報部長である私の2人が「スバルネクストストーリー推進室長」を兼務して連携しているという体制です。

編集部:まさに宣伝と広報が連携した形だと思いますが、部署名に「ストーリー」という言葉が入っているのは珍しい例だと思いました。

岡田:新組織の名称はトップが自ら考案しました。「スバルを買うと新しい人生(ネクストストーリー)が始まる」というブランドメッセージが込められています。スバルの提供価値は「安心と愉しさ」です。自動運転システムに代表される「安心」の機能と同時に、情緒的な価値を実感してもらえるようなコミュニケーションを行い、「スバルって、何かいいよね」と思っていただくことをゴールとしています。

関口:数値化が難しい「情緒的な価値の提供」というのは、成果を目に見える形にしてプロジェクトを継続させることが非常に難しいと思います。活動をどのように評価する仕組みになっているのでしょうか。

岡田:「ネクストストーリー推進室」では、リアルの場での試乗イベントなどスバルユーザーが参加できるプログラムを強化しています。成果の定量化は非常に難しいですが、リアルでもネット上でもお客さまの反応が見えるようになったという点を評価していますね。

関口:広報もマーケティングも顧客の購買行動を検証・数値化し、それに基づいて戦略を打つという形が多いと思います。当社では「新しい挑戦をしたら、3カ月後には何らかの結果を出す」というのが暗黙の約束となっています。

岡田:実は米国の現地販売会社では「ネクストストーリー」と同様のコミュニケーション活動の成功事例があって、その成功が社内で認知されているという前提もありました。販売も非常に好調ですし、地道な取り組みがあってこそ販売につながるという共通認識が生まれました。

関口:御社のような考えで活動ができるということは素晴らしいことだなと思います。ブランドのファンとのコミュニケ—ションは、具体的にはどんなプログラムなのでしょうか。

岡田:今年の3月に実施した「スバル ファンミーティング」は、スバル初の試みです。栃木県佐野市にあるスバル研究実験センターのテストコースをスバルユーザーに開放して、高速周回路で時速180キロメートルを体験することができるイベントなどを楽しんでいただきました。以前から企画の構想はありましたが、それは宣伝や販促部門の管轄による試乗会という形で、新規顧客の獲得を目的としていました。

ネクストストーリー推進室の設置により、ようやくこうしたイベントを開催することができるようになってきたので …

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