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本田哲也のGlobal Topics

中国人ランナーは走るべき?走らざるべき?ナイキ「Saving Runners From Death」キャンペーン

本田哲也

ランニングブームの中国。ただし国内でWHOの「安全な大気」に関する基準を満たしているのはわずか1%だ。

花粉で憂鬱な時期が今年もやってきた─。日本気象協会の発表によると、2016年のピークは全国で3月上旬から。花粉症の皆さんはそろそろマスクが手放せなくなるが、ここでひとつ残念なお知らせ。どうも今年は例年の1.6倍の飛散量らしい。

さて、「飛散する」と言えば花粉どころの騒ぎではないのが、中国のPM2.5だ。爆竹や花火で旧正月を祝う2月には濃度が150近くを記録し、全国338都市のうち実に271都市で基準値を上回る汚染を確認。うち92都市で「重度の大気汚染」(中国環境保護部)となった。まさに末期的状況だが、市民の関心は肺がんとの関連性。世界保健機関(WHO)によると、2012年に世界全体で肺がんと診断された約180万人のうち65万人を中国人が占めているという。今回は、そんな中国の環境問題と健康意識にうまく焦点を当てたナイキの事例をご紹介しよう。

ナイキは世界的に、ランニングをスポーツの世界へのエントリーと位置づけて重要視していた。ご多分にもれず、中国でもランニングはブーム。しかし、問題は大気汚染だ。中国の100都市のなかで、WHOの「安全な大気」に関する基準を満たしているのはわずか1%のみ。中国人にとって、外出前に「AQI(Air Quality Index)」(=大気質指数)をチェックするのはもはや日常行為。ともすれば、天気予報よりも重要な指数だ。

ここでナイキが目をつけたのは、「どこまでがランニングに安全な数値か」ということだった。ランニング好きのなかには、習慣を続けたいがために数値が高くても走ってしまう人もいる。ソーシャルメディアでは、「いつ走るべきか」という質問や意見があふれていた。ナイキは、ランナーに自身の健康を守りつつ、「賢く走ってもらう」ことが大事と考えたのだ。

ナイキはまず、医療の専門家にアドバイスを仰ぎ「AQIが100以上ならランニングしないほうがよい」という基準を見出す。そのうえで、2800万ダウンロードを超え、中国で最も普及しているという「PM2.5アプリ」と手を組んで、アプリ内にランナー専用のメニューを共同開発した。ランナーはこれによって、走ってよい日と走らないほうがよい日が判断できる。新設のナイキ・インディケーターが「グリーン」になればランニングへ。「レッド」になれば室内トレーニングが推奨され、ナイキのトレーニングアプリのダウンロードがお勧めされる、というわけだ。

その結果、最初の3カ月で、実に3億回を超えるセッションが行われ、結果として北京、上海、広州の3都市で全ランナーの44%がナイキのコンテンツにリーチすることになった。社会のニーズとブランドオファーを見事につなげた、PR発想だといえるだろう。ではまた来月!

本田哲也(ほんだ・てつや)

ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー/戦略PRプランナー。主な著書に『最新 戦略PR入門編/実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、共著に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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