広報活動の中で常に隣り合わせとなる法律が「知的財産」にまつわるもの。はっと気付いた時、「時すでに遅し」とならないよう、日頃からしっかりとポイントを押さえておく必要がある。今回は書籍の電子化について考える。

1.はじめに
書籍の中身をパソコンの記憶装置にデータとして蓄積しておき、必要なときに取り出して使うことができれば、分厚くて重たい書籍などを携帯せずに済み便利です。また、書籍を保管するスペースや費用の節約にもなります。このような利点から、手元にある書籍を裁断機でばらばらにして、スキャナーで読み込む方法で、書籍の内容を電子化することが流行しています。当初、書籍の所有者が「自らの手でデータを吸い込む」ことから、略して「自吸い」となり、転じて「自炊」と呼ばれるようになったといわれています。
しかし、現行の著作権法のもとにおいて、著作者に無断で書籍を電子化し、その内容をパソコンにデータとして蓄積することは、一部の例外的な場合を除いて、著作者の複製権(著作権法21条)、すなわち、「自己の著作物を無断で他人に有形的に再製されない」という著作者の権利を侵害することになります。
では、「自炊」をめぐりどんな問題が起こり得るのかについて、順にみて考えていきましょう。
2.自炊代行と著作権法
⑴ 自炊と複製権侵害の関係
著作権法は、著作者の権利(著作権)と利用者の権利の調整を図るための特則の一つとして、複製物を使用する者が、私的目的とその目的に準ずる形態で自ら複製を実行する場合には、著作者の権利はおよばないと規定されています(30条1項)。したがって、「自炊」、すなわち、書籍の裁断及びスキャナーによる読み込みが、この規定との関係で、どのように扱われるかについて検討する必要があります。
第一に、個人が自己の意思(又は会社の命令)で書籍を裁断機でばらばらにする行為ですが、これは、著作者の名誉等を毀損することにならないのでしょうか。結論として、著作権侵害の問題は生じません。また、自己の所有にかかる書籍を自分で裁断するのであれば、刑事上の問題も生じません。