広報活動の中で常に隣り合わせとなる法律が「知的財産」にまつわるもの。出店者に違法行為があった場合、運営者にはどんな責任が生じるのか。今回は、日本におけるサイバーモールの運営者の責任について考える。

世界中で多数の模倣品が出回っている高級ブランド「ルイ・ヴィトン」。ブランドの伝統を守る上で、これまで商標権侵害で戦ってきた回数は数知れず。一方、中国は世界の高級品市場の中心的顧客層でもある。コンサルティング会社の米ベイン・アンド・カンパニーが昨年発表したリポートによると、中国人消費者の高級品への支出は大中華圏外で最も伸びており、その成長率は31%にも上るという。
1.はじめに
前回、日本におけるインターネット上のショッピングモールの運営者の責任について検討しました。今回は、米国の事情について概観し、日米間に違いがないか検討することにしましょう。
米国の場合でも、商標(ブランド)に依存するところが大きい業界にとって、サイバーモールのなかに設けられている「ショッピングサイト」(以下、「販売業者」という)による偽物商品との戦いは、「もぐらたたき」のような状態で、ブランド保有者と偽物商品の販売業者との間では、いわば「仁義なき戦い」が繰り広げられている模様です。
こうした状況から、ブランドの保有者が、販売業者でなく、インターネット上に「販売の場所」を提供している運営者(以下、必要な場合「プロバイダ」という)の責任を追及する訴えが米国でも起きています。
2.具体的な事例
⑴ True Religion Apparel Inc. et alv. Xiaokang Lee et al
この事案は、商標権者と商標権を侵害した商品をインターネット上で販売している業者との間の争いです。米国の著名なジーンズの製造販売会社であるトゥルー・レリジョン社(原告)らは、2011年11月15日、米国で事業を行っている100を超える数のインターネット上の販売業者を相手取って、ニューヨーク州連邦地方裁判所に商標侵害の訴訟を提起しました(事件番号:1:11-cv-08242)。これらの販売業者が、原告の偽物商品(中国製)を販売していたので、それを中止させるためです。しかし、その販売業者の本拠地は中国に置かれており、裁判所が指定した期日内に答弁書が提出されなかったため、裁判所は、2012年3月12日、被告に対して敗訴を言い渡しました。その内容は、被告らのインターネット上でのすべての販売を永久に停止し、8億6400万ドルという巨額の損害賠償金を命じるものでした。しかし、勝訴はしたものの、原告が中国において被告を具体的に見つけ出し、米国での判決の執行を中国で行い、これによって賠償金を回収することは、事実上困難だと考えられます。こうした背景から、次の事案のように、サイバーモールを運営し、販売の場所を提供しているプロバイダに何らかの責任を求めることはできないか、という問題が浮かび上がることになるのです。