広報活動の中で常に隣り合わせとなる法律が「知的財産」にまつわるもの。出店者に違法行為があった場合、運営者にはどんな責任が生じるのか。今回は、日本におけるサイバーモールの運営者の責任について考える。
1. はじめに
平成24年8月28日、経済産業省は、「平成23年度電子商取引に関する市場調査」の結果を発表しました。それによると、平成23年度におけるわが国のBtoCの市場規模は8.5兆円で、前年比8.6%の増加であったとのことです。特に、医薬、化粧品、衣類、アクセサリー、食品などの分野では、対前年比20%以上の伸びを示したと報告されています。
しかしながら、ウェブ上の取引については、ルールが確立されていないことも多く、トラブルに巻き込まれるリスクがあります。たとえば、国内のサイバーモール(仮想商店街)の出店者から購入した商品が偽物だったため、商品を返品して返金を求めようとしたところ、出店者が倒産していて事実上責任の追及ができない場合が考えられます。その場合、そのサイバーモールの運営者に責任を求めることは可能なのでしょうか。また、出店者が他人の商標権を侵害した商品を販売している場合、商標権者は、そのサイバーモールの運営者に対して権利侵害の責任を追及することはできるのでしょうか。これに類した事件は過去にも発生していますので、まずその内容を概観することにしましょう。
2. 実際に起きた事件
(1) ヤフーオークション詐欺被害事件
(名古屋地判平成20年3月28日、名古屋高判平成20年11月11日。平成21年10月27日最高裁第三小上告棄却)
本件は、ヤフーが提供するインターネットオークションサービスを利用して商品を落札し、その代金を支払ったにもかかわらず、商品の提供を受けられないという詐欺にあった784人が、ヤフーの提供する本件システムには、詐欺被害を生じないシステムの構築義務に反する瑕疵があり、それによって詐欺の被害を被ったとして、債務不履行または不法行為に基づき、ヤフーに対して損害賠償(約1億6000万円)の支払いを求め、最高裁まで争った事案です。
結論として、オークションシステムの提供者・運営者であるヤフーの管理責任は認められず、原告(被害者)の請求は棄却されました(確定)。一審及び控訴審裁判所が判示した理由は、おおむね次のようなものです。