洋服は試着したり、体に合わせたりして買うように、身近な食器類など日用品、あるいは誰かへの贈り物も、できれば試したい。何が何でも、というわけでもないけれど、できるとうれしい。そんな消費者に寄り添う店がある。
マネタイズ時機を後ろにずらす
中川政七商店はことし1月、東京・表参道の旗艦店を「まるごと試せる中川政七商店」としてリニューアルした。取り扱う1700SKU(在庫単位)を店頭で試せる。
たとえば、「十七種のブレンド茶」は、パッケージや商品名だけで味を想像することがむずかしい商品だが、試飲した人からは「とても飲みやすく、ほかにない味」と好評だという。試飲用のお茶を用意したことで、「お湯で淹れても、水出しでもおいしい」「この分量がおいしい」と、提案の幅も広がった。
ほかに「ぬげにくいくつした」というネーミングの靴下は、従来、構造の工夫やスタッフの体験談を話すにとどまっていたが、試着して店内を歩けるようにした結果、十分納得して買う人が増えた。
「高品質の商品を販売している自負は強くあります。比較的、高めの価格であっても、"使ってもらえれば伝わる"とも思っています。でも、"使ってもらえれば"と願うだけでは、『使ってみてください』と話すだけでは、不十分なのです」──こう話すのは、中川政七商店 取締役兼コミュニケーション本部の緒方恵・本部長だ。使われれば、買ってもらえる。使い続けてもらえる自信があるからこそ、試用のハードルを下げることを選んだのだ。
しかし、店頭で試しても、使われないかもしれない。その分、ムダになるかもしれない……そんな懸念を抱くのも自然だろう。しかし、緒方氏はこう話す。
「たしかに商品を開封しても、その場で購入いただけないおそれもあります。ですが、使った体験はのちのち生きてくるはず。日別売上では損かもしれませんが、体験者を増やし続ければ顧客生涯価値は高まると考えたのです。つまりマネタイズのタイミングを後ろにずらす。それを具体化したのが、『まるごと試せる』店舗構想です」
商品を試せることで来店者が得られる利便性は、比較できる、理解できるなどがある。たとえば贈り物に最適なお菓子はどれか選んだり、うたっている機能は本当かを確かめられたり。清水の舞台から飛ぶのも一興だが、納得して買ったものに満足するのも気分はいいものだ …