スカイネットアジア航空(ソラシド エア)が東京・熊本で開催した「くまモンGO! 就航記念セレモニー」に出席した蒲島県知事。企業とのコラボレーションでは、知事自らが積極的に参加する。
くまモンはもともと、九州新幹線全線開業(2011年3月)に向け、熊本県が取り組んだPRキャンペーンのキャラクターとして生まれた。当初、同プロジェクトにかかわった人は誰も、商業キャラクターをもしのぐほどの現在の人気ぶりを予見していなかったという。大手企業による販促起用事例や熱狂的なファン、グッズのコレクターが増え続けている今の状況に対し、運営側の熊本県庁はどのような戦略を持っているのか。県のトップである蒲島知事に聞いた。
「楽市楽座」の方針で年間売り上げは293億円超
くまモンがこれほど企業に起用されるようになった理由の一つが、デザインに熊本のカラーを出さなかったこと。くまモンは県のPRキャラクターですが、当初は「熊本を売り込もう」というより、「まずはくまモンを好きになってもらい、そこから熊本を連想してほしい」という狙いでした。普通、「ご当地キャラ」には地域の特色を盛り込みますよね。それを排除して、まずはキャラクターの魅力だけで売り出したのです。地域色が薄いから、全国展開する企業にとっても使いやすいのでしょう。
もう一つの大きな理由が、キャラクター利用料を無料にし、簡易な審査で使えるようにしたこと。私はこの方針を「楽市楽座」と呼んでいます。これにより、キャラクター知名度が低い頃から気軽に使ってみようという企業が現れ、実際に売り上げが上がる事例も多数生まれた。その実績が認められ、今では1万件以上の商品にくまモンが使われています。
そういう意味で、くまモンは一つの市場になっているのです。熊本県が提供したくまモンという新市場に企業が参入し、コラボした商品が売れて利益が生まれる。こうしたコラボ商品の2012年の年間売り上げは、県が把握できているだけで293億円に達しました。調査の回答率が約5割だったので、実際にはそれ以上だと見ています。
当然、くまモンの付いた商品が売れれば熊本県の宣伝になります。キャラクター利用料を頂かなくても、宣伝費をかけずに全国でくまモンが露出することを考えれば、県にとってもメリットは大きい。企業と行政の間で、まさにWin-Winの関係が構築できているわけです。
現在は毎月700件以上のキャラクター利用申請がありますが、それだけ企業からの需要が増えた今でも、県からの要求は「熊本の宣伝になるかどうか」という一点のみです。原材料に県産品を使ってもらう方法が主流ですが、食品でなくても熊本のブランド向上に寄与してくれれば、どんな方法でも良いのです。ですから、企業の皆さんが自由に「どうしたら熊本のためになるか」と考えてくれます。この過程自体が、熊本ブランドの向上に寄与していると言えるでしょう。従来、行政の役割は「指導・管理・規制」が中心でしたが、私はこの仕組みが、行政の新たな領域になりうると感じています。
飽きさせないための「空中戦」と「地上戦」
くまモンは日本全国に認知されましたが、何でも飽和状態になると飽きられるもの。そうならないために、現在注力しているのが海外展開です。12年1月の中国・上海進出を皮切りに、台湾や香港に訪問し、同エリアではファンも増やしつつあります。
海外展開は、くまモンの市場を世界中に拡げるとともに、ブランド力を向上するための取り組みでもあります。その最たる例が、今年5月にドイツのシュタイフ社が発売した「テディベア くまモン」。海外の老舗企業とのコラボというだけで話題性があったのに、さらに1500体が5秒で完売しました。同様に、バカラやBMW「MINI」など、世界的な一流ブランドがくまモンの魅力に注目してくれた。海外での評価は、ミラーイメージとして国内での評価に反映され、くまモンのブランド価値を高めます。一地方の「ご当地キャラ」が、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(米)や『ガーディアン』(英)、『ルモンド』(仏)など有力な各国新聞に載ったことで、熊本の人はもちろん、日本の人が喜んでくれるのです。
こうした「空中戦」でブランド価値を高める一方、「地上戦」として、くまモンは各地の幼稚園や福祉施設、小規模なイベントなどにも小まめに登場し、生活者に密着した活動を続けています。この土台があるからこそ、登場から3年を経てもくまモンのファンは増え続けている。でも地上戦だけでは世間は飽きてきますから、運営側として、ブランド価値を高める努力は怠りません。それが一流ブランドとのコラボであり、あるいは私が東京大学で「『くまモン』の政治経済学」(5月)という講義を行い、話題を集めることなのです。」
2011年11月、「ゆるキャラグランプリ2011」でくまモンがグランプリを受賞した際は、県庁ロビーで知事や県職員、くまモンファンがお祝いに駆け付け、多くの報道関係者が取材のため集まった。
「熊本のためにお金を使いたい」と思える市場づくりが目標
本来、「ブランド管理」と「楽市楽座」は相反する考え方です。