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空間がつくり出す 新しい「体験」型コンテンツ

場所が持つ意味を考えて生まれた体験のストーリー

GOOD NATURE STATION

2019年12月9日に京阪ホールディングスが京都の四条河原町にグランドオープンした「GOOD NATURE STATION」は、同社が2014年から推進してきた「BIOSTYLE」プロジェクトのフラッグシップとなるライフスタイル提案型の複合型商業施設である。京阪電車というトレインステーションで昭和の暮らしを豊かにしてきた同社が、令和の新しい価値観に合わせたライフステーションの創造に挑んでいる。

京都の中心部、四条河原町にグランドオープンした「GOOD NATURE STATION」。4階にあるホテルロビーは開放感のある空間(上)。地元産野菜やオーガニック食品を扱うマーケットと市場食堂「GOOD NATURE MARKET」(下)。

“効率より愛着”で提案されたコンセプト

「信じられるものだけを、美味しく、楽しく。楽しみながら美しく、健康に、そして元気になれる」を合言葉に、ホテルをはじめ、レストラン、カフェ、美のテーマパーク、マーケットなどを集積させた「GOOD NATURE STATION」は、京都の中心地にいながらにして自然から元気をもらえる、未来型のトータルライフスタイル施設だ。

京阪ホールディングスが新規事業として「BIOSTYLE」を打ち出したのは2014年のこと。有機JASの野菜などを販売する株式会社ビオ・マーケットを傘下に収め、オーガニックを含めた「身体に良いもの」「生産者、作り手の思いが見えるもの」を提供することにより、京阪電車沿線を中心とした人々の暮らしを豊かにし、「安心安全」を超えたライフスタイルの新しい価値を生み出そうという挑戦の始まりだった。

そのフラッグシップとなる拠点の構想を練る途上で、POOL inc.に白羽の矢が立った。というのも、POOLは京阪グループのひとつである京阪ホテルズ&リゾーツが2019年1月に開業したホテル「THE THOUSAND KYOTO」(京都市下京区)のコンセプト開発と施設開発を手がけた実績があり、このプロジェクトの担当者とも既知の間柄であったからだ。

「すでに開業予定の1年前というタイミングだったこともあり建築予定地や施設全体の方向性は決まっていると聞かされました。ただし、コンセプトとして固まっているわけではなく、ビオを前に打ち出したいという漠然としたものがあっただけでしたので、人によって解釈が異なっているという印象でした。例えば商品を仕入れるのに、オーガニック認証商品だけに絞るのか、もう少し緩やかにして間口を広げるのか。建築では高級ホテル路線の華やかなファサードを止めるのか、内装もナチュラルな素材やアースカラーに抑えるのかなどを決めかねている状態でした」。

時間に限りがある中、小西さんをはじめ、同クリエイティブディレクター 是永聡さん、同コピーライター 小林麻衣子さんは、加藤好文社長(当時)以下、企画運営を担うグループ会社の株式会社ビオスタイルを含めたプロジェクトの20人近いリーダーたちにヒアリング。その上で、すべての基準値となる概念を決めることから進めていった。

こだわりのコスメ、クラフトショップ、カフェや美容施設が入るスタジオ(3F)。

心と体の心地よさを追求した新発想の「GOOD NATURE HOTEL」は、4階から9階に。

GOODの「O」と「○(まる印)」、そのふたつの意味を込めたロゴ。

館内デザインやツールなど、さまざまなところに「O」を展開している。また、ホテルで使うツールはいずれも自然素材などにこだわってつくられている。

天然木を基調とした温もりある内装のホテル客室。マーケットで買ったものを部屋でゆっくりと食べられるように、座るスペースを充実させた。

ヒアリングの内容を受けて、あいまいな部分が多かった動きに串を刺す概念として示したのが、“GOOD NATURE”というキーワードだ。同時に、トレインステーションではなくライフステーションをつくる会社へと移行すべきだという提案も言い添えた。ともすればストイックになりがちなビオやオーガニックに、「完璧じゃなくても大丈夫」「ガマンはしない」「美味しいほうがいい」といった気軽さを持ち込むことで、オーガニックが日常になりつつある世界的な潮流も踏まえたエピキュリアンな(快楽的な)ビオを形にしていく試みが始まった。

「私たちの強みは...

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