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空間がつくり出す 新しい「体験」型コンテンツ

地元住民と一緒につくる自由な遊び場

下北線路街 空き地

小田急電鉄は東北沢駅-下北沢駅-世田谷代田駅区間の線路地下化により地上に生まれた1.7キロにわたる線路跡地を「下北線路街(しもきたせんろがい)」と名づけ、現在開発を進めている。その一角に生まれた「空き地」と名付けられた空間では、地元の人を中心にさまざまなイベントを開催。新たなコミュニティ形成やコミュニケーションの場として活用されている。

下北沢駅から歩いてすぐのところに位置する「空き地」。芝生の真ん中に置かれているのは、空き地の象徴とも言える土管。最近ではあまり見ることがないものだが、子どもたちには人気だという。現在、開発中の下北沢線路街は全長1.7km。この中に、さまざまな企業や団体、区の施設などが入る。

開発コンセプトは「支援型開発」

「下北線路街」開発の方向性について、企画を担当しているUDS事業企画部ゼネラルマネージャー鈴木衣津子さんは次のように話す。「下北沢は以前から個人で活動されている方が多く、多様性のある街です。そこにデベロッパーがやってきて、商業施設をつくって“新しいものできましたよ”という開発でいいのか、そうじゃない下北沢の良さが求められているんじゃないかと、小田急電鉄の開発チームの方々とずっと議論を続けてきました。その結果、いまの下北沢の色々な人が自分の好きなこと、やりたいことをベースに活動をしている複層的な街の良さを拡大していこうという方向性が決まりました」。

UDSからの依頼で開発コンセプトを含むコミュニケーション全般を担当したPARKInc.プロデューサー三好拓朗さんは「これはよくある電鉄の都市開発と違う」と話す。「小田急さんは、共栄的な精神にあふれていて、普通の開発は商業施設をつくって短期的な収益を追い求めたりしますが、街の継続的な発展を真剣に考えていました。だから、下北沢の主役である小さい商店の人とも、対話を繰り返しながら、一緒に“新しい街”をつくっていくことになったんです。僕らが一方的に何かをつくるのではなく、むしろ下北沢の街に僕らがどうやって溶け込んでいくかを重視しながら開発のプランニングを進めていきました」。

コミュニケーション面は、PARK Incが担当。線路をモチーフにしたロゴ、イメージビジュアルを使ったポスターなどを制作した。

地域住民と対話を繰り返すなかで、三好さんたちは最初に「支援型開発」という“開発テーマ”を設けている。「最近、人事系でよく聞くサーバント(支援型)リーダーシップ。従来のようにリーダーが立てた旗のもと皆を引っ張るのではなく、一人ひとりと対話して、個人の自己実現と会社の目標をどうすり合わせ、それをサポートしていくというアプローチです。今回の開発は、まさにそれに近いと感じました。小田急が旗を立てて街をつくるのではなく、街の一人ひとりにそれぞれのゴールがあり、それを小田急がサポートして大きなゴールにしてくというイメージです」。

この開発テーマをスローガンに落とし込むために、下北沢の魅力を「多様性、寛容性、ヒューマンスケール」の3つにまとめ、生まれた開発コンセプトが「BEYOU.シモキタらしく。ジブンらしく。」だ。多様性にあふれる下北沢で、いろいろな人が自分らしく生きていける街であり続けるという思いが込められている。

ただ、このコンセプトを立てただけでは大きな変化は起こらない。そのため、新たに3つの具体的な行動として「01.であうを支援する」、「02.まじわるを支援する」、「03.うまれるを支援する」を定義している。

これについて三好さんは「小田急の担当者は行動定義を考えるときに“発酵”というキーワードを挙げていました。下北沢はいろいろなものが交わって、熟して、発酵して、新しいものが生まれていく街だと。これを理解しやすいように3つのワードに分けました。例えば、お店ではなくそこにいる『人』に出会ってもらったほうが、より魅力が伝わりやすいから、人と人の出会いをつくり出す。また街中にはコミュニティがたくさんあるけれど、実はそこが分断されているから音楽と食のイベントを企画して両者が交わるようにする。さらに、交わって出てきたアイデアや企みが実現しやすいように、今回の空き地のような自由に使える場やクラウドファンディングの仕組みを用意したりなど、活動が生まれていくことをサポートできればと思います」と話す。

下北線路街は、これらの開発テーマやコンセプトに沿う形で、2020年度に向けて、各駅周辺の特性を踏まえて個性豊かな施設を整備していく。すでに完成している施設もあり、2016年には賃貸住宅「リージア代田テラス」が完成。2019年には...

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