2019年4月に横浜・みなとみらいにオープンした「資生堂グローバルイノベーションセンター」。その1階の一角に設けられているのは白を基調とした小部屋「BEYOND TIME」だ。2人1組で入るこの装置の中では、お互いの未来と過去の顔が見られる。

BEYOND TIME外観。
デジタルタイムトラベルを体験
資生堂の研究施設「資生堂グローバルイノベーションセンター(呼称:S/PARK)」は、従来の研究施設の閉ざされたイメージとは異なり、人と人との交流の中でよりオープンな形で研究をし、イノベーションを進めるべく開設された。その1階と2階部分は一般開放されている「コミュニケーションエリア」。「美のひらめきと出会う場所」をコンセプトとし、来館者と研究員が交流する場として、さまざまなコンテンツを提供している。カフェやトレーニングスタジオ、ミュージアムなどを有し、同社の研究員が直接来館者の話を聞きパーソナライズされた化粧品を提供する設備も設けた。
そんな「S/PARK」の1階の一角にあるのが、2人1組で「デジタルタイムトラベル」を体験できるインスタレーション、「BEYOND TIME」だ。立方体の部屋が2つ横並びに置かれたようなつくりで、部屋の境目は壁で仕切られている。
外側に置かれたタッチパネルで、あらかじめお互いの年齢や性別、関係性(親子、友人、同僚など)を入力。それぞれが両側の部屋に入り、向き合う形で座る。すると目の前に設置されたスクリーンで、お互いの顔立ちが年齢ごとに変化する様子を見られる。体験中は自分の顔の変化は見られず、相手の顔しか見られないが、最後には変化した年齢の2人の顔の写真が二次元コードを通じて手に入る。
BEYOND TIMEのプロジェクトリーダーを務めた資生堂クリエイティブ本部 エグゼクティブクリエイティブディレクター 鐘ヶ江哲郎さんはプロジェクトが立ち上がった背景をこう振り返る。
「資生堂の100年以上のスキンケア研究の歴史の中で、『年齢を重ねた肌と顔立ちの変化』をデータをもとに研究している『エイジング・サイエンス』がテーマのひとつとしてありました。これをもとに、未来の顔立ちも予測することができるのではないか、また、過去の顔立ちも見られるのではないか、というアイデアが浮かんだのが数年前のことです。当時は写真加工アプリのようなものが普及する前だったのですが、ガジェット的なものではなく、当社が積み重ねてきた膨大なデータに基づくことで、きちんとした予測がたてられるのはないか、と考えました」。
そのアイデアを「デジタルタイムトラベル」として実現すべく、資生堂が約2年前に相談を持ち掛けたのが、デジタルに強みをもつクリエイティブエージェンシーR/GAだった。
その際に相談を受けたR/GAのマネージングディレクター 鈴木洋介さんは同社の空間づくりについて「R/GAのすべての空間プロジェクトで共通するのは、人と環境をシステムでつなぐ、という構造です。その環境でどのような行動をしてもらうのかを理解し、コンテンツやコミュニケーションを用いて人と環境を融合させます」と話す。その基本構造をもって、「デジタルタイムトラベル」を実現すべく、プロジェクトが始まった。
同じくR/GAのエグゼクティブクリエイティブディレクター ニクラス・リリヤさんは、資生堂からの依頼を徐々に具体化していった過程を説明する。
「当時まだ一般に広まっていなかったものの、既にSNSやスマートフォンで顔立ちを変えられるアプリがあるのはわかっていたので、そこと差別化するために何をすべきかをまず考えました。これまで資生堂さんと協業してきた中でわかっていたのは、企業使命である『BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD』を大切にしていること …