今年のカンヌライオンズでR/GAは「Disruption by Design:Creating the Next Agency Model(計画的な破壊:これからのエージェンシーモデル)」と題するセミナーを行った。常に広告界の一歩先を行く存在として注目を集める同社が示した、次なるエージェンシーの形とは。

プレゼンター:
ボブ・グリーンバーグ Chairman, founder, CEO
バリー・ワックスマン Chief Strategy Officer
サニール・ラディア Senior Vice President of Consulting
ニック・ロー Global Chief Creative Officer
自己破壊で時代の変化に対応する―ボブ・グリーンバーグ
カンヌのステージでプレゼンするのは、今回で14回目になる。約40年前にR/GAを設立してから、社会はさまざまなテクノロジーやコミュニケーションによる「破壊(Disruption)」を経て大きく変わった。今日は、「破壊」の重要性について話したい。
90年代半ば、R/GAは映画のCGを制作する会社として成功していた。しかし、インターネットの普及による「破壊」が起きた時、私は会社に変化が必要だと思った。うまく行っているビジネスモデルを壊すのは、大変なことだった。ほとんどのスタッフが理解してくれず、去って行った。
R/GAで改革を推し進める原動力となったのは「自己破壊(Self-disruption)」だった。逆に、R/GAは設立から今まで、外部の力によって破壊されたことは一度もない。会社が最も成功している時に、ビジネスモデルを何度も変えているからである。会社に変化が必要な時は、最も成功している時だ。90年代半ば、私は会社を根底から立て直さなければならなかった。しかし今はどんな変化にも対応できるような、柔軟なビジネスモデルがある。それをこれから紹介する。
データこそが現代の通貨である―バリー・ワックスマン
私たちのクライアントには、業界で長く活躍している、いわゆる大手企業が多い。一方、その企業がいる業界には、ほぼ必ずと言っていいほど破壊的革新者が存在する。破壊的革新者は、例えば自動車業界にいたとしたら、ある日突然新型モデルを発表する。
この新型モデルは完成するのにあと2年もかかるのに、発表から数日後には数十万台が飛ぶように売れている。そしてこの破壊的革新者は、話を聞くと自分が自動車業界にいるとすら思っていない。自動車よりも環境を守ることに関心があり、太陽パネルや新しい電池の開発に力を入れている。
また、この破壊的革新者は、広告にいっさいお金をかけずに勝っているかのように見える。何年も前にジェフ・ベゾスが言った言葉だが、「広告は、革新が欠けている時に払う税金」なのだ。私たちのクライアント、つまり業界に長くいる大手企業は、こうした破壊的革新者との闘いを日々強いられている。
広告業界では、約50年にわたり以下5つのポイントが重要とされてきた。これはリサーチ会社の統計によるものなので、個人的な見解というわけではない。
Traditionalists(伝統主義者)の思考:
1.認知を広めるためのブランドストーリーは?
2.消費者の購買意欲を喚起する次のオファーは?
3.どんな媒体をどれだけ買えばいいか?
4.どれだけインプレッション数とクリック数を伸ばせたか?
5.新規顧客開拓につながる新しい色、風味、組み合わせは?
一方、破壊的革新者が見るポイントはこうだ。
Disrupters(破壊的革新者)の思考:
1.ブランドの存在意義は?
2.その存在意義を広く知ってもらうには?
3.どうすればブランドが消費者の問題解決につながるか?
4.どうすればブランドと消費者は取引がしやすくなるか?
5.データをどこから得て、そのデータを使って上記の課題を解決するにはどうすればいいか?
6.ブランドが現代の社会や文化にどのような影響を与えるか?
新しいテクノロジーやメディアによってできた消費者の習慣や活動は、データに残すことができる。そしてこのデータこそが、現代の情報化社会においては通貨とも呼べるくらいの価値を持ち、企業の成長まで左右している。
それは、2001年に世界で最も価値のあった5社(GE、マイクロソフト、エクソンモバイル、シティバンク、ウォルマート)と、2017の5社(アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック)を比べても明らかだ。いま注目されている企業は、いずれも膨大な顧客データを集め、うまく駆使している会社ばかりだ。
では、外部から破壊されずに、自らが破壊的革新者になるにはどうすればよいのだろうか?ポイントは6つある ...