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CAC60周年記念企画

こんな時代だから、いまこそテレビCM

今回の「温故知新」はちょっと番外編。Web動画全盛の時代に、テレビCMはどうなっていくのか。ディレクター 中島信也さんが若手CMプランナー2人に話を聞きました。

写真右から博報堂 神田祐介氏、東北新社 中島信也氏、電通 栗田雅俊氏

CMプランナーは誰でもなれる

中島:最近、広告クリエイティブの広がりがある一方で、CMそのものの企画をする人やその面白さを伝承する人がいなくなっているんじゃないかと、不安に思うことがありました。そんなときに、偶然にもお2人から仕事の依頼を受けて、僕自身すごく刺激を受けました。そこで今日は、今この時代に、あらためてCMという仕事の面白さを徹底的に話してみたいと思っているんです。そもそもどうしてCMプランナーになろうと思ったんですか。

栗田:僕は地元に帰って教師になろうと思っていたのですが、大学3年生のときに先輩から電通インターンの前身である「電通クリエーティブ塾」を勧められて。応募したら幸いにも受かり、通いはじめたことがきっかけです。通う前までは「CMをつくるのは天才の仕事だから自分には無理」と思っていたのですが、クリエーティブ塾では毎週CMコンテを見てもらう機会があり、そこで僕が前からノートに書いては一人で笑っていたニッチなネタがウケたんです。それで「CMもこれでいいんだ。だったらやってみよう」と、徐々に意識が変わりました。

神田:僕はノートの裏に四コマ漫画を描いて、クラスの友だちに見せて笑わせるのが好きな子どもでした。大学入学後は漠然と「表現がしたい。ものをつくる仕事につきたい」と思うようになりましたが、広告業界は考えていませんでした。そんな僕がCMに興味を持ったのは、ファンタの「先生」シリーズを見たこと。「こんなに面白い映像をつくって、お金をもらえる仕事があるんだ」と広告業界に興味を持ちました。

調べてみると、そのCMをつくっていたのが当時の博報堂クリエイティブ・ヴォックスの岩本恭明さんと井村光明さんだとわかり、「修行させてください!」と手紙を書いて送りました。岩本さんは変な人が好きなので(笑)、「遊びにおいで」と言ってくれて、それから僕も「先生」シリーズの企画打ち合わせに参加させてもらえるようになったんです。

中島:学生なのに打ち合わせに参加していたとはすごいですね。でも、だからといって入社できるとは限らないですよね?

神田:当初はインターンのような感じで、岩本さんからは「最初は時給700円。ダメだったらすぐクビにするという条件でよければやってみる?」と言われました。だから、僕は大学卒業後に半年ほどアルバイト期間があり、その後正式に入社したんです。

中島:神田さんのCMの師匠は岩本さんと井村さんなんですね。栗田さんの師匠は?

栗田:たくさんいますが、CMづくりで大事にしているルールを教えてくれたのは、髙崎卓馬さんです。僕はコピーライター時代が長く、CMをきちんと学ぶ機会がありませんでした。その頃、電通社内で髙崎さんが主宰していた個人塾「テラゴヤ」に参加してみたら、自分がやっていたことはほとんど「やってはいけない」ことだとわかった。「CMって、こうやってつくるんだ…こんなルールがあったんだ…」と目から鱗がぽろぽろ落ちました。

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CM制作には、クライアントとの出会いも大事

中島:2人は悶々とした時代を抜けて、話題のCMをいろいろとつくっているけれど、どうやって表舞台に立てるようになったんですか?栗田さんも髙崎さんから教わっただけではダメだったでしょう?

栗田:悶々としていた時代は『コピー年鑑』をずっと見ていました。日々の業務に流される中、少しでも技術を伸ばさなきゃと思って『コピー年鑑』を読みながら自分で勝手にコピーやCMの法則をつくったりして。それをもとに研修などにも全力で取り組んだ結果、褒めてもらうことがあり、そこから人がつながって、みたいな感じです。

神田:僕は初めて見た15秒CMの企画が井村さんのコンテ。それは打ち合わせのときにみんなが腹を抱えて笑うぐらい面白かったんです。通常、絵コンテを見て打ち合わせで笑うことってあまりないですよね(笑)。だから、僕は「プロは違う。CMの世界はこんなに面白いことを考えなければ食べていけないんだ」と思ったところからのスタートでした。

中島:かつてCMは文化度や娯楽度が高かったけれど、最近は戦略度が高いクリエイティブに押されがちで、もっとがんばらなくてはいけないところにあると感じています。「CMは娯楽としてもっと面白くなければダメ」だと思うし、それを実現するためには面白い表現を一緒に楽しんでつくってくれるクライアントと巡り合うことも大事です。2人の仕事はどちらかと言えばエンタメ度が高いと思うんだけれど、どうやって仕事は来ていますか。

栗田:社内の人が出会わせてくれることが多いです。僕は研修で知り合った人たちが声を掛けてくれる仕事も多くて。「社内研修は無駄」とか言われがちですが、僕の人生はだいぶ研修に助けられています(笑)。

中島:面白いCMをつくる際は「栗田を呼んでみよう」という流れができているんですね。神田さんは面白い仕事しかやっていないという印象ですが、どうですか?

神田:すべて面白いものばかりではありません(笑)。自分の人生は後悔の連続で、何となく引き受けてつくってみたものの、やっぱりダメだったということが多々ありました。そこで嗅覚が養われて、これは自分とは違うという雰囲気の仕事に対する察知能力は高くなりましたね。

中島:クリエイターのことを大事にしてくれるクライアントがいらっしゃる一方で、毎回競合というクライアントも少なからずあります。そうすると信頼関係が築くのが難しく、CMクリエイターは本領を発揮しにくくなる。お二人はコンペに参加していますか?そのときは当てに行きますか?

栗田:参加しています。僕ら若手が参加する場合は、若くて面白いかもしれないと結成される「Cチーム」になることも多い。手堅い案を出すAチームが別にいるので、比較的フルスイングもしやすいのかなと。

神田:僕はコンペが多いのですが、当てに行こうと思っていくとだいたい負けますね。勝つときは自分の中で納得ができて、上がりが見えていて、これはよくなると確信できる企画を出したときだったりします ...

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