4年目を迎えた「ものづくり産地の祭典」の新展開
今年の10月に4年目を迎える、新潟県 三条市のイベント「燕三条 工場の祭典」。今年は金属加工の「工場」に加えて、農業の「耕場」が加わりパワーアップしている。全体監修を行うmethod 山田遊さんとアートディレクションを担当した一人、SPREADの小林弘和さんに話を聞いた。
地域の可能性を引き出すクリエイティブ
漆器や眼鏡づくりの産地として知られる福井県鯖江市に、「デザイン+ものづくりユニット」を標榜するクリエイティブカンパニー「TSUGI」がある。デザインワークにとどまらず、商品開発、店舗運営、イベントやセミナーの企画運営まで、地域と結びつき、仲間を増やしながら取り組んでいる。出身の大阪から、鯖江市河和田地区に移住して7年。地域で活動するデザイン会社の 1つのモデルケースを確立しつつある。
福井県鯖江市にある河和田地区は人口約4300人の小さな町で、越前漆器や眼鏡などのものづくりが盛んな地域として知られている。そこでデザイン+ものづくりユニット「TSUGI」を設立し、地域活性のために活動している新山直広さんは7年前に就職で京都から河和田町にやってきた移住者だ。「京都精華大学では建築を学んでいましたが、当時、准教授だった片木孝治さんが面白い方で、『これからは建築の時代じゃない。地域づくりの時代だ』と言っていて。興味を惹かれた僕は片木さんの設計事務所でアルバイトするようになり、彼が運営する河和田アートキャンプにも参加したんです」。
河和田アートキャンプとは2004年の福井豪雨を契機にはじまったイベントで、学生が主体になって行っている地域づくりプロジェクトだ。「最初は田舎で行われているアートイベントぐらいに考えていた」という新山さんだが、そこで人口減少問題やストック活用の重要性などを目の当たりにし、建築のデザインよりもまちづくりの重要性を初めて肌で感じたという。卒業後は片木さんの設計事務所に就職する予定でいたが、「地域づくりの会社を別につくるからそこのスタッフに」と言われ、河和田町に新設された応用芸術研究所の“ 唯一の社員”として、京都から移住することが決まった。
まちづくりに魅力を感じていた新山さんはポジティブな気持ちで移住したが、待ち受けていたのは辛い現実だった。「就職して1カ月で挫折しました。新卒の僕にできることはたかが知れているし、社長とは遠く離れていて意思疎通もままならない。知り合いは隣に住んでいるおじいちゃんとおばあちゃんだけでした」。2009 ~ 2012年の3年間、孤軍奮闘をしたが、地域づくりでは思うような結果を出せず、「自分は地域づくりに向いてない」と自信を失った。
ただ、得るものもあった。きっかけは市役所からの委託で行った越前漆器の産業調査だった。「全く売れていないし、ワゴンセールでたたき売りされている状況を見て、この町にはブランディングが必要だと痛感しました。河和田はものづくりの町だから、そこが元気にならないと町も元気になりません。だから僕はものづくりを支援するために、売れるデザインと流通までを考えられるデザイナーになろうと決意したんです」。新山さんが“売れる”を強調するのには理由がある。過去に河和田の職人が有名デザイナーに依頼したところ、商品は全く売れず、それでいてデザイナーだけが注目されたという苦い記憶がこの町にはあるからだ。「この町では売るところまで計算しないとデザイナーとしてはやっていけない」。新山さんは河和田町の現実を見てそう確信した。
「デザイナーになろうとしているんだって? 就職先がなかったらうちへ来い」。そんな電話をくれたのは鯖江市の牧野百男市長だった。大学や応用芸術研究所でデザインの仕事を全くしていなかった新山さんは、一度 …