実際にはないモチーフをあたかも実在しているかのように描いた「Figure」シリーズで、第14 回グラフィック「1_WALL」のグランプリを受賞した美術家の関川航平さん。パフォーマンスやインスタレーション、グラフィックデザインなどさまざまなアプローチで、作品を介して起こる意味の伝達について考察している。
モチーフが“遠く離れる”
どうしたら意味のないもの、作為的でないものをつくれるか。「つくらないをつくる」ことを考え続ける関川さん。いつしか、「作品における意味の伝達」それ自体について考えが及ぶようになる。
作品を発想する際はいつも「言葉」からはじまる。いわゆる設計図のような言葉を綴るのだが、言葉の面白さに作品が追いついてこない。「言語的・概念的な面白さ」を出発点にしない作品もつくらなければ、と考えるようになり、絵を描くトレーニングをはじめる(もともと美大で版画を専攻)。そこで着想したのが、実際には存在しないモチーフを、あたかも“それを見ながら鉛筆で描いた”ような「Figure」シリーズ。リアリティが浮遊するような不思議な感覚にとらわれる。「一つひとつのモチーフに具体的な理由はありません。シリーズの特徴について言葉を尽くしても、絵そのものには影響が及ばない安心感があるのです」。目指したのは、「こう描かれているなら、こういうモチーフなんだろう(実際にはないけど)」という受け取られ方。「抽象的な言い回しですが、描いているうちにモチーフが“遠く離れる” 感じが気に入っています」。
直接手を動かすことだけではなく、言語的な整理整頓に追いつかれない芯の太い表現作品を追求している。